中東かわら版

№10 トルコ:新型コロナウイルス対策事情(一部囚人の刑期短縮および釈放)

  

 2020年4月15日、トルコ当局は新型コロナウイルス感染症(コロナ)対策の一環として、収監中の一部囚人の釈放を開始した。

 現在、トルコ国内には375の刑務所があり、その収容定数は12万人と言われているが、それを大幅に上回る30万人が収容されている。既に刑務所内でコロナへの感染が確認され死者も出ている。「刑務所」という閉ざされた空間で、収容者同士も過密な状態にあることから、さらなる感染者数の増加が懸念されていた。

 3月31日、同状況を緩和するための対策として、与党の公正発展党(AKP)および、AKPと協力関係にある民族主義者行動党(MHP)の両党は共同で刑法改正法案を策定し、大国民議会(国会)に提出した。司法委員会での公聴会を経て、4月7日から国会で審議が開始され、14日、同法案は賛成279、反対51(定数600)の賛成多数で可決された。

 可決された法案では、性犯罪、麻薬(覚せい剤等の薬物製造含む)、第一級殺人、女性に対する暴力(家庭内暴力等)、国家機密に対する犯罪(スパイ行為等)および、テロ行為にかかわる罪で収監中の囚人を刑期短縮および釈放の対象外とした。これらに該当せず、刑期の半分以上服役している4万5千人~9万人が条件付きで刑期短縮または(仮)釈放されることとなる。また、65歳以上の高齢者、6歳未満の子を持つ女性、および重病の収容者は、特定の条件下で自宅軟禁となる。

 エルドアン大統領は同法案が議会で可決されたことについて、「長い準備期間を経て議会に提出された同法案は、法の運用が被害者と犯罪者の双方にとって、より公正であることを目指した。人道的見地から子を持つ女性、未成年者、高齢者、病人等に配慮した内容になっている。刑務所の管理および機能に関する問題を解決するための措置であり、同じ人々が再び罪を犯さないようにすることを目標としている。彼ら(刑期短縮や釈放される囚人ら)が国家、市民、社会からの信頼を無駄にしないと信じている」と述べた

 これに対し、最大野党・共和人民党(CHP)のクルチダルオール党首は、AKPがコロナ対策として、国会を45日間休会とする提案を行ったことへの批判とともに、ジャーナリストや有識者、活動家らを今般の法改正の対象から除外したことを強く批判した。CHPは今回の議会決議を違法として、憲法裁判所に提訴する準備を進めていることも明らかにした

 

評価

  

 今般の法改正はやや強硬とも思えるが、刑務所内での集団感染防止のための減刑措置は、感染拡大が深刻なフランスや英国、米国、イラン等でも実施されている。

 4月20日現在、トルコは国内の感染者数が8万人を超え、これまで中東で最多だった隣国イランの感染者数を初めて上回った(21日現在、9万980人)。トルコでは初の感染者確認以降、遊興施設の閉鎖はもとより、国民の外出規制等、早期に様々な対策を講じるとともに、検査数を増加させ感染者の早期発見に努めており、現時点における死者数はイランの半分以下に抑えられている。

 エルドアン大統領は、受刑者であってもウイルスの危険から守られるべきであるとして、国民に理解を求めている。基本的人権の尊重、感染拡大を食い止めるという観点から見れば、適切な措置と評価できよう。

 しかしながら、前述のようにテロ行為、家庭内暴力、性的暴行等については、刑期短縮の対象としていないことから、その運用方法について国内で異論があることも事実である。

                                                                                                                                                         

(研究員 金子 真夕)

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