中東かわら版

№9 イスラエル:ガンツ代表による組閣の失敗、新しい首相候補の選出へ

 2020年3月2日の総選挙後、首相候補に指名された「青と白」連合のベンヤミン・ガンツ代表はリクード党党首のネタニヤフ首相と連立協議を進めていたが、両者は組閣期限の4月15日夜(本来は13日だったが2日間延長された)までに合意に達しなかった。組閣期限は14日間の延長が可能であったが、リブリン大統領は組閣の可能性は低いと判断し、国会(クネセト)に21日以内に新たな首相候補を選出するよう伝えた。5月7日までに、過半数(61名)以上の議員の支持を得た新首相候補を選出しなければならない。国会で首相候補が決まらなければ、8月4日に4回目の総選挙が行われる。

(筆者作成)

 なお、ガンツ代表とネタニヤフ首相が連立合意に失敗した理由は、リクードが、西岸入植地のイスラエル併合の7月開始、判事任命方法の変更、最高裁が首相の汚職事件訴訟を理由に首相資格の無効を判断した場合は国会を解散すること、などを要求し、ガンツ代表がこれらに反対したためと報じられている。

 

評価

 2019年4月の総選挙から組閣の失敗とやり直し選挙を繰り返し、またも組閣が失敗した。3月末にガンツ代表は青と白連合を中心とする連立形成からリクードとの連立に舵を切ったが、それぞれの入植地政策に関する主張の対立、政治生命を守るための計算が組閣失敗に繋がった。

 入植地についてリクードは7月からの一方的併合を主張したが、青と白は「国際社会との協調」が条件であると主張する。またリクードは、ネタニヤフ首相が汚職の罪に問われて裁判中であることから司法府の動向を警戒しており、「判事任命委員会」における判事任命方法の変更を主張した。また、青と白連合を形成するイェシュ・アティド党(13議員)とテレム党(16議員)がガンツ代表とネタニヤフ首相との連立協議に反対し、3月末に同連合から離脱した。これもガンツ代表の組閣を困難にした要因であろう。

 今後、新首相候補は二大政党のリクード・青と白連合のいずれかから選ばれると思われ、現在も両党は連立協議を進行中である。青と白の分裂により国会内での議員数において優勢に立ったリクードの方が有利に連立を形成できるという見方もある。新型コロナウイルスの感染拡大が喫緊の課題である現在、早期に国家予算を成立する必要性においても、4回目の選挙は何としても避けなければならない選択肢である。

(上席研究員 金谷 美紗)

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