中東かわら版

№8 中東:新型コロナウイルス対策事情(ラマダーン月への対応)

 2020年4月23日の日没、ヒジュラ暦1441年のラマダーン月が開始予定である。以降30日間、イスラム教徒には日中の断食をはじめとする斎戒が義務づけられる。これにあたり、新型コロナウイルス感染(COVID-19)拡大を考慮した各国の対応が以下表のように報じられている。

 

表 ラマダーン月に向けた中東諸国の主な対応についての報道

国名

概要

イエメン

●ヒシャーム・シャラフ外相は、国連のグランデ・イエメン担当人道調整官とラマダーン月の対応について協議

イラン

●ハーメネイー最高指導者は、集団による礼拝を控え、自宅で行うよう改めて指示

エジプト

●スンナ派学府の名門アズハルは、COVID-19によって断食の義務が免除されるわけではないとの声明を発表(WHOによれば、飲水やうがいがCOVID-19を防ぐ、つまり断食がCOVID-19の誘因となるとの医学的根拠はないため)

●宗教管財省は、公共の場での集団によるイフタール(日々の断食明けの食事)の禁止を発表

カタル

●政府は、ドーハのワーキフ市場が必要な食料品を良好な衛生環境で販売する準備を進めていると発表

●宗教管財・イスラーム事項省は、4月14日からラマダーン月を挟んだ3カ月間、貧困層世帯に食料品を宅配すると発表

クウェイト

●宗教管財・イスラーム事項省は、タラーウィーフ礼拝(夜間礼拝)を自宅で行うよう指示

サウジ

●アブドッラティーフ・アールッシャイフ・イスラーム事項相は、タラーウィーフ礼拝を自宅で行うよう指示

チュニジア

●ウスマーン・バッティーフ最高法諮問官は、断食の実施は医学的な助言次第であると発言(16日開催の国家安全保障会議後に決定)

トルコ

●宗務庁は声明で、断食が免疫低下を促すとの医学的根拠はなく、健康な人々は通常通り断食と貧者への施しを行うよう指示

バハレーン

●工業・商業・観光省は、食料品の備蓄は万全であること、また食料品の需給バランスや価格の著しい変動が起こらないよう監視を続けることを発表

ヨルダン

●宗教管財省はタラーウィーフ礼拝を自宅で行うよう指示

●ターリク・ハンムーリー工業・商業・配給相は、食料品販売を目的に一部店舗の営業を許可すると発表

UAE

●ドバイ・イスラーム事項・慈善活動局の最高法諮問官は、重篤または医者が飲食を必要と指示した場合を除き、COVID-19の患者も断食は義務であると発言

●政府は、必要な家庭にイフタールを宅配すると発表

出所 報道をもとに作成

 

 なお、各国ではすでにモスクや公共の場に集まっての宗教儀礼(日々の礼拝含む)が禁止されており、これらの措置はラマダーン月も継続される。

 

評価

 表によれば、各国の対応は概ね以下のように大別される。

 

1. 断食が義務となるか

 通常、幼児・妊娠または月経中の女性・病人・旅行者等は断食の義務が免除される。COVID-19の患者は病人に該当するため免除の対象となりえる。チュニジアでは断食免除が提言され、アルジェリアにも同様の論調が起こっている。一方、エジプト・トルコ・UAEの対応にあるように、健康な人が感染予防(免疫力向上)の観点で飲食することへの注意喚起が見られる。

 

2. 断食以外の儀礼・慣行をどう行うか

 ラマダーン月には、モスクの併設施設や公園に集まって日没時の断食明けの食事(イフタール)をとったり、日没後にモスクで長時間の礼拝(タラーウィーフ礼拝)を行ったりといった、固有の儀礼・慣行がある。これらは社交距離を確保すべきとの観点から禁止される方向だ。

 

3.食料品の販売

 ラマダーン月では、日没時のイフタールを皮切りに夜通し食事をする例も見られ、通常よりも食料消費が多いとしばしば指摘される。こうした背景から、UAEとカタルを筆頭に、各国政府は必要な食料品が通常に近い形で提供されるように策を講じている。

 

 以上の通り、各国の対応には、大勢が集まっての儀礼・慣行を除けば人々がラマダーン月を問題なく過ごすための配慮が見られる。一方で社会全体を見れば、COVID-19拡大によるラマダーン月への影響は免れないと考えられる。以下はその代表的なものである。

 

4. 停滞が予想される各種「施し」

 トルコ宗務庁の指示にあるように、ラマダーン月は貧者への施しが奨励される。しかし、これはモスクをはじめとした公共の場で行われることが多い。社交距離の確保が義務づけられる状況では寄付額の低迷が予想されうる。無料で振る舞われる公共の場でのイフタールの中止とあわせて、施しを受ける側にとって、また食糧不足が報じられるイラクの大衆にとっては経済的苦境を痛感するラマダーン月となりそうだ。

 

5. 期待できない経済効果

 ラマダーン月に、ホテルやレストランはイフタールを兼ねた会食プランを用意することが多い。またラマダーン月が終わった後の3日間の祝日(イードルフィトル)には小売店がバーゲンセールを積極的に行う。これらによる消費は、外出禁止令が出されている状況下では期待できない。またサウジアラビアに関しては、通常ならラマダーン月の前後に増加する聖地メッカの巡礼が、やはり同地が封鎖されている現状では実現不可能であり、本来なら見込めるインバウンド消費が期待できない。

(中東調査会)

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