中東かわら版

№5 イラン:新型コロナウイルス対策事情

 2020年4月11日、ロウハーニー大統領は新型コロナウイルス対策タスクフォース会合において、リスクの低い商業活動を同日から再開する方針を示した(首都テヘランを除く)。同大統領による4月12日に行われた同タスクフォース会合での発言の概要は以下の通りである。

 

  • 昨日(※4月11日)の本会合での主な決定事項は、4月11日からの低リスク商業活動の再開を含む「スマート社交距離キャンペーン」の実施である。テヘランでは、4月18日から低リスク商業活動が再開する予定である。高リスク商業活動(※ショッピングモール、映画館等の大人数が集まる施設の営業と思われる)については追って決定する。
  • 低リスク商業活動には業者組合に加盟する小売店、商店等の営業が含まれる。商業再開を希望する業者組合は、保健省が整備したシステムに登録しコードを受領する。これにより、保健省はいずれの商店が基準を遵守しているかを追跡できる。
  • また、すべての公共交通機関(バス、地下鉄、等)は、各線の始点・終点で殺菌処理を受ける。運転手にはマスクと手袋の着用が義務付けられ、定められた座席数分のみの乗客を乗せるものとする。
  • 今月24日前後に開始予定のラマダン期間中の規制については審議中であるが、対面での集まりは禁止する方針である。

 

 4月12日現在、イランにおける新型コロナウイルス感染の推移は以下の通りである。

 

図表1 イランにおける新型コロナウイルス感染者数・死者数累計の推移

 

(出所)保健省発表を元に筆者作成。

 

図表2 イランにおける1日ごとの新型コロナウイルス感染者数の推移

(出所)保健省発表を元に筆者作成。

 

評価

 4月12日時点でのイランにおける新型コロナウイルス累計感染者数は7万1686名、累計死者数は4474名を記録しており、状況は厳しいままである(図表1)。著しい新型コロナウイルス感染拡大を受けて、イラン政府は3月中旬から商業施設の閉鎖、都市間移動の禁止、社交距離キャンペーンの開始などの厳しい対応をとってきた(詳細は4月8日付中東分析レポート「イランにおける新型コロナウイルス感染拡大の諸要因」【会員限定】参照)。こうした対応は徐々に成果を挙げつつあるとみられ、1日ごとの感染者数は3月30日の3186名をピークに減少傾向を示している(図表2)。このため、今次決定の理由には、当局が、事態が改善方向に転じつつあると判断した可能性が挙げられる。

 他方、終息と結論付けるには程遠い蔓延状況でも商業活動の段階的再開に踏み切らざるをえない背景には、イランの厳しい財政状況があるだろう。現在、イランは米国からの制裁は「医療テロ」だとして制裁解除を広く国際社会に呼び掛け、苦境からの脱却を目指している。IMFに対して巨額の貸付要請もしており、財政は相当逼迫しているとみられる。このため、イランとしては商業活動の段階的再開は止む無しとの立場のようであるが、早まった決断が感染の再爆発を引き起こす危険性も排除できない。今回のイランの対応は、世界各国が都市封鎖解除の時期を模索する中、感染症対策と経済対策の狭間でどのような政治的判断が最適かを見る上で試金石になり得る。

 

【参考情報】

*中東諸国の新型コロナウイルス感染状況について、当会HP上で随時アップデートし、公開しております(トップページ右上)。皆様のご活動や情報収集に是非お役立てください。

(研究員 青木 健太)

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