中東かわら版

№4 イエメン:サウジによるイエメン全土での停戦発表

 2020年4月8日、サウジ主導有志連合は、同9日12時より2週間、初めてのイエメン全土における、武装組織アンサールッラー(フーシー派)を相手とした停戦を発表した。サウジのハーリド・ビン・サルマーン副国防相はこれについて、アンサールッラーにとっては(同組織を支援しているとサウジが主張する)イランと決別する機会であり、サウジはイエメンに5億ドルの人道支援金を拠出する予定だと述べた。今次決定は、世界における新型コロナウイルス感染(COVID-19)拡大を受けて、現在感染者が確認されていないイエメンへの波及を防ぐためのものとされる。

 

評価

 世界の主要メディアには、今次停戦発表を5年に及ぶイエメン戦争(サウジが2015年3月に軍事介入)の終結に向けたステップと捉える向きが見られる。イエメンでは戦争によるインフラ破壊がコレラ流行や生活必需品不足といった問題を誘発し、とりわけ衛生環境の劣悪さが爆発的な集団感染につながる事態が予想されるため、同発表の効果への期待は高いようだ。

 もっとも、今次停戦発表が直ちにイエメン戦争終結への道筋をつけるかどうかは疑問である。これまでに度々見られたサウジ側による停戦の取り組みは軒並み頓挫しており、また「イスラーム国」(イエメン州)及び「アラビア半島のアル=カーイダ」とアンサールッラーとの武力衝突は、今次停戦発表とは無関係に継続する可能性が高い。さらに言えば、今後イエメンにおいてCOVID-19が認められた場合、一部の国がこれを(感染者が多い)イランからの人の移動、つまりイランのイエメン介入の証拠だと主張する、感染経路の政治利用といった事態も考えられよう。

(研究員 高尾 賢一郎)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP