中東かわら版

№131 サウジアラビア:ツイッター・アカウント情報の窃盗容疑

 2019年11月6日、米国司法当局が、サウジ人3名を訴追したことを発表した。3名の訴状内容については以下概要の通り。

氏名

アフマド・アブー・アムー

アリー・アール・ザバーラ

アフマド・ムタイリー

職業

ツイッター社元従業員、中東地域のメディア連携担当

ツイッター社元従業員、セキュリティ・エンジニア

米国でSNS会社経営

罪状

2015年前半に6,000人分のツイッター・アカウントから電話番号、メールアドレス、その他個人や居場所を特定できる情報を取得、窃盗。引き換えに金品を受領

窃盗された情報をサウジ政府に提供

余罪

文書偽造、FBIへの虚偽証言

外国代理人(Foreign Agents)としての未登録

状態

逮捕・勾留中

サウジに帰国、指名手配

備考

米国市民権所持

 

 

  情報取得・窃盗の対象になったのは、サウジ政府を批判する投稿をしていたアカウントで、内33件は後にサウジ司法当局からツイッター社に「アカウント閉鎖」の要求があったとされる。なお、現時点でサウジ国内の主要メデイアは本件を報じていない。

 

評価

 アール・ザバーラ氏及びムタイリー氏の2名が、司法省・国家安全保障局が管理する外国代理人登録法違反を問われているように、米国において本件は、外国人スパイの活動として扱われている。さらに報道では、この2名とサウジ政府のつながり、特にムタイリー氏についてはサルマーン国王やムハンマド皇太子との関係、またカショギ氏殺害事件を引き合いに出し、本件を反体制的な人物をあぶり出すためのサウジ政府の謀略とする見方もある。

  こうした陰謀論は、真相はどうせ明らかにならないだろうとの諦めによって無責任に展開する面があり、鵜呑みにはできない。しかし、「スパイ」行為が行われたという2015年前半は、サルマーン現国王が即位し(1月)、ムハンマド現皇太子が王宮府長官及び国防相(1月)、次いで副皇太子(4月)に任命されて、政治の表舞台の中心に姿を現したタイミングである。さらにこの間、ムハンマド皇太子が国防相としてイエメン空爆の指揮を執り(3月)、現在に至るイエメンへの軍事介入が開始した。このような世代交代を伴う新体制の発足、さらに国内外で議論を引き起こす軍事行動が始まったタイミングで、政府が体制批判の萌芽に気を払うのは無理からぬことであろう。

  もちろん、だからといってSNSに登録された個人情報の不正な取得・使用が許されるわけではなく、ツイッター社は当然この観点から容疑者3名に言及する。さらに、サウジ政府への影響に関して言えば、同国は9月に観光査証の発給を開始し、今後多くの外国人観光客を招こうというタイミング、日本に限って言えば英字新聞Arab Newsが10月末に日本語・オンライン版の発行を開始し、サウジの情報を発信しようというタイミングを迎えている。ここで、サウジ政府が不正な手段を用いて言論統制を行っているとのイメージが定着すれば、現地発の情報が全て政治的なバイアスを経たものだという不信感が強まってしまう。

(研究員 高尾 賢一郎)

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