中東かわら版

№46 サウジアラビア:ムハンマド皇太子へのインタビュー掲載

 2019年6月16日付『シャルク・アウサト』(サウジ資本の汎アラブ紙)が、サウジのムハンマド・ビン・サルマーン皇太子へのインタビューを掲載したところ、要旨以下のとおり。

1. 対イラン関係

 イランとの戦争は望まない。同国は直接ないし武装組織を通したテロ行為で地域の緊張を高めてきたが、(いずれ挫折して)正常な国家となり、悪行を止める道を選ぶだろう。

2. 対米関係

 イランへの追加制裁を支持する。米国との協力関係は地域安定の要であり、(下記7をめぐって米国とサウジの間に溝が生まれたとする)メディア・キャンペーンで揺らぐものではない。

3. 直近のミサイル攻撃等

 オマーン湾のタンカー攻撃、サウジの石油パイプライン施設及びアブハー空港への攻撃等は国際社会にイランの脅威を示すもの。我々は先般の日本の首相によるイラン訪問を称えるが、オマーン湾の日本籍タンカー攻撃はこれを侮辱するものとなった。

4. イエメン紛争

 政治的解決に向けた努力を継続するが、フーシー派はイエメン人の利益よりイランのアジェンダを優先している。

5. スーダン情勢

 スーダンの繁栄に向けてあらゆる分野での支援を継続する。

6. シリア紛争

 「イスラーム国」根絶と新たなテロ組織の誕生防止、またイランの介入に対応する。

7. ジャマール・カショギ氏殺害事件

 サウジ国民が殺された以上、痛ましい犯罪である。我が国の司法制度を批判する声もあるが、他国の国民の死を政治利用しないよう求めたい。

8. 経済事案

 サウジ・ビジョン2030は計画・立案から実施の段階に移った。サウジ・アラムコの新規株式公開は状況とタイミングを見つつ、2020~21年初頭の間を予定している。

 

評価

 インタビュー内容は常套句を多く含むものの、米国とイランの武力衝突への不安が最大限に膨らんだタイミングで行われたものである点、やはり注目すべきであろう。ムハンマド皇太子側にも当然この意識があったと考えられる。

  インタビューで取り上げられた話題は多岐にわたるが、「イランとの戦争は望まない」という点については、たとえ米国が代わりに戦うケースを想定するにせよ本音であると思われる。この理由は、一つに戦争となれば自国も無傷では済まず、「飛び火」を警戒しなければならないため。もう一つは、シリア紛争への言及に見られるように、イランの政治・治安情勢を過度に不安定化させて新たな過激主義の温床を生むことを警戒しなければならないためである。この点を踏まえ、インタビューは、自国の安全保障を脅かす問題のほぼ全ての原因であるイランを、米国による経済制裁と軍事的示威行為によって徹底的に疲弊させるという、サウジが描く安全保障外交の軸がうかがえる内容だと言える。

 

【参考】

イスラーム過激派モニター(No.M19-04)「オマーン湾での船舶攻撃事件」(会員限定)

中東トピックス(2018年10月号)No.T18-07「サウジアラビア:イスタンブル総領事館でのジャーナリスト殺害事件」(会員限定)

『中東研究』第531号(2017年度 Vol.Ⅲ)「サウジアラビアの海軍増強計画――イランの脅威への対処と紛争の管理を巡る問題」(村上拓哉)

(研究員 高尾 賢一郎)

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