中東かわら版

№45 イラン:ホルムズ海峡付近でのタンカー攻撃事件

 6月13日、ホルムズ海峡に近いオマーン湾において、タンカー2隻が攻撃を受ける事件が発生した。被害を受けたうち1隻は日本の国華産業のタンカー(パナマ船籍、本社:東京都千代田区)であった。事件発生直後、ポンペオ米国務長官が会見において、同攻撃の責任はイランにあると述べた。イランはこれを否定しており、ザリーフ外相や外務省のモウサヴィー報道官らは、地域での協力や対話が必要であると主張した。

 

評価

 事件発生を受けて犯人探しが盛んに行われているが、一旦冷静に事態を見極める姿勢が必要と考える。特に、ポンペオ米国務長官が発表したイラン犯人説は決定的な証拠に欠けているため、攻撃に使われた物などの証拠が精査されない限り、これに同調するのは早計である。今般の動きは、先月フジャイラ沖で発生したタンカー攻撃事件(第1報第2報)や、サウジでのパイプライン攻撃事件などと同様に、確証なしにイランの脅威を主張するような流れを更に強める恐れもある。ホルムズ海峡の安定は急務であるが、犯人捜しを焦り、重要な情報を見落とすような事態は避けたい。

 また、イラン犯行説については、状況に鑑みれば可能性が低いように思われる。事件発生同日は、最高指導者ハーメネイー師と安倍首相の会談があった日である。このタイミングでタンカー攻撃事件が発生したことは、湾岸諸国の安定化を図ろうとするイランの努力や、首相訪問の意図を傷つける形となる。最高指導者が日本の首相を迎えるという外交上重要なタイミングで、双方の顔をつぶすような行動をイランがとるとは考え難い。また、ホルムズ海峡は世界有数のチョークポイントであることから、この周辺の不安定化が国際社会に大きな影響を与えることをイランは十分に自覚している。

 今般のタンカー攻撃については日本も当事者である。14日午後に国連安全保障理事会が米国の要請で非公開の緊急会合を開いているが、事態を冷静に見極めたうえで慎重な判断を望みたい。

 

【参考情報】

*オマーン湾での攻撃事件については、『イスラーム過激派モニター』(会員限定)もあわせてご参照ください。

 ・「オマーン湾での船舶攻撃事件」(No.M19-04, 2019年4号

*湾岸諸国における「イラン包囲網」の動きについては、『中東トピックス』(会員限定)をご参照ください。

 ・中東トピックス(2019年4月号)No.T19-01

 「4. サウジアラビア:イラン包囲網は堅調か」

 ・中東トピックス(2019年5月号)No.T19-02

 「6.GCC:緊迫する域内情勢とサウジの攻勢」

*中東情勢講演会(6月7日)において、現在の米国、サウジ、イランのスタンスが確認され、今後の展望について考察が行われました。

(研究員 近藤 百世)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP