中東かわら版

№47 エジプト:ムルシー元大統領の死去

 6月17日、ムハンマド・ムルシー元大統領が、カタルなどのスパイを行ったとされる罪に関する公判に出廷中、意識を失い死亡した。67歳。検察庁の発表によると、意識を失って倒れた後に付近の病院に搬送され、死亡したという。以前より彼は病気による体調不良を訴え、弁護士や人権団体が獄中での劣悪な生活環境の改善を求めていた。

 死亡の報を受け、ムルシーの出身組織であるムスリム同胞団は、要旨以下の声明を発出した

 

・今日、エジプト史上初の民選大統領であるムハンマド・ムルシー大統領(原文ママ、以下同様)が殉教者となった。茶番かつ虚偽の裁判所において自由・主権・尊厳ある生活という人民の権利を守るために。命の最後の瞬間まで、謀略との戦いのなかで、独裁からの解放計画における最も偉大な象徴として、堅固さと忍耐と勇敢さを証明した。

・大統領は輝かしい1月革命のアイコンとなるだろう。エジプトの偉大な指導者たちのなかの指導者として歴史に記憶されるだろう。自身の祖国の自由、国民、宗教のために、自身の宗教を受け渡さず、殉教した。

ムスリム同胞団は、ムハンマド・ムルシー大統領は殉教者としてアッラーに召されたと考える。不誠実な軍事クーデタ政権に彼の意図的暗殺の全責任がある。彼をきわめて劣悪な状況の独房に入れ、治療、家族による面会、弁護士による面会という最も単純な人権を剥奪した。

ムスリム同胞団は、この事件について、クーデタ政権に属さない専門的な医療委員会による国際的な調査によって、死亡の真の原因が世界に向けて明らかにされることを要求する。

ムスリム同胞団は、世界の人権組織に対して、特にその中心にいる国連に対して、治療を受けさせないという、ゆっくりと殺す犯罪を止めるために行動するよう要求する。この犯罪は、クーデタ刑務所に拘留されている数千人の囚人に対して行われている。

ムスリム同胞団は、金曜日(※6月21日)に行われる、ウンマの指導者・殉教者ムハンマド・ムルシーの葬儀礼拝に集まるようイスラーム・ウンマに呼びかける。その後、世界中の都市、世界各国のエジプト大使館前で、ファシスト軍事クーデタ政権に反対するデモを行う。エジプト人民・エジプトが解放されるまで、エジプトとエジプト人民のための行進は終わらないだろう。エジプト人民すべてに、自由と独立と人間的尊厳の権利がある。

 

評価

 当面、注目されることは、ムスリム同胞団が呼びかけたムルシーの葬儀礼拝とその後の抗議デモにどれほどの人数が参加するかであろう。治安当局は、彼の死去と同胞団の声明発出を受けて警戒態勢を高めている。エジプト国内では、彼の死去とシーシー政権の人権侵害や囚人の非人道的な扱いとを結びつける見方が、同胞団支持者だけでなくリベラル派政治勢力にも共有されているようである。

 シーシー政権は同胞団を国内外で最大の脅威と見なし、ムスリム同胞団の最高幹部に対して死刑や無期懲役刑を言い渡してきたが、最高幹部の死刑は実行していない。それは、国内外に広く存在する多数の同胞団支持者の反応を警戒してのことである。そのため、ムルシーに極刑を実行せずに、または直接手を下さずに、ムルシーが死に至ったことは、実はシーシー政権にとっては最も良いシナリオであったと予想される。他方、ムルシーが「クーデタ政権」(シーシー政権)の圧政による「殉教者」として公式化された今、ムスリム同胞団が今後支持者を動員できるのかどうかという点は、この団体の現在の組織力を判断する材料となるだろう。

(研究員 金谷 美紗)

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