中東かわら版

№28 トルコ:イスタンブル市長選のやり直しを決定

 5月6日、トルコ高等選挙管理委員会(YSK)は、3月31日に実施されたイスタンブル市長選挙のやり直しを決定した。再選挙は6月23日に実施される。この決定は、与党公正発展党(AKP)および、AKPと協力関係にある民族主義者行動党(MHP)からの異議申し立てに基づく審議で決議された(※YSK委員11名のうち、賛成7名、反対4名)。今後の政情不安を想定し、同決定発表直後にリラは急落した。

 イスタンブル市長選は、AKPが擁立したユルドゥルム前首相と、最大野党の共和人民党(CHP)候補のイマムオール氏との間で激戦となったが、最終的に0.25ポイント差でイマムオール氏が勝利した(下の票を参照)。

 しかし、選挙終了直後からエルドアン大統領、バフチェリMHP党首は、今次選挙は結果に影響を及ぼしうる重大な不正があったとして猛抗議し、再集計を要求した。YSKは、4月8日と15日の2度にわたり票の再集計を行ったが、結果は覆らず、4月17日にイマムオール氏へ当選証書を交付し、同氏は正式に市長に就任した。これを不服としたAKPとMHPは、4月20日にYSKにイマムオール氏の当選無効と再選挙実施の申し立てを行い、YSKは、不正があったとされる32件について調査を開始し、100名以上の投票所の責任者や関係者などから事情聴取を実施した。その結果、不正があったと認定し、今回の決定に至った。現在、同氏の市長職は停止させられている。

 YSKが正式決定を下す直前の5月2日、AKPの選挙統括を務めるヤヴズ副大統領は、記者会見で、「我々は、数千人もの不適格な有権者が投票に参加していたことを突き止め、ユルドゥルムとイマムオールの得票差が29,000票から13,000票に減少したことを証明した。我々は、今回の不正がCHPによるものだとは一度も言っていないが、結果としてCHPが裨益したことは明らかである。」と述べた。

 他方、イマムオール氏は、選挙結果が覆されたことに関し、イスタンブル市内での集会で、「誰もこの結果を疑うべきではない。今後の対応については、クルチダルオールCHP党首や他の野党幹部とも協議をしたうえで、もっとも正しい決断を下す」と自身の正当性を主張した。

 

 3月31日のイスタンブル市長選結果

投票者総数

10,570,939

投票者数

8,866,620

有効投票者数

8,547,094

イマムオール

4,171,126 (48.8%)

ユルドゥルム

4,149,667(48.55%)

(出典:YSK)

 

 

評価

 YSKが下した今回の決定は、トルコがこれまで築いてきた選挙過程の透明性への信頼を傷つけるものになったと言わざるを得ない。今次決定に至るまでにYSKは、与党側の異議申し立てに基づき、票の再集計を2度実施した。それにもかかわらず、結果が覆らなかったとことに鑑みても、再選挙実施に正当性を与えることは困難だろう。

 また、同決定に対する国際社会からの視線も冷ややかだ。ドイツのマース外相は、「(YSKの決定は)不透明で理解できない」と述べた。米国務省も、「自由かつ公正な選挙と法に基づいた選挙結果の受け入れは、いかなる民主主義にとっても不可欠である」とのコメントを発表した。

 さらに、トルコ経済の面からみても、YSKの決定が与えた影響は大きい。再選挙実施の発表直後にリラが急落し、対ドルで5.9648リラから一時6.1075リラとなり、1カ月以上ぶりの下げ幅となった。再選挙でユルドゥルムが逆転勝利となった場合、悲観的な見方が広がり、さらに下落する可能性が高いだけでなく、過去最大となった2018年8月の大幅下落を更新する可能性もある。

 現状では、AKP・MHPの与党連合の思惑通りとなっているものの、6月23日の再選挙でユルドゥルムが勝てるという保証はなく、再度落選した場合、自身の権力を行使して独立機関の決定を歪めたエルドアン政権へのダメージは更に大きいものとなる。エルドアンにとって次の再選挙は「賭け」となるだろう。

 

中東調査会会員の方は、以下もご参照ください。

中東トピックスNo.T18-11 2019年2月号(トルコ:ユルドゥルム国会議長の辞任と新議長の選出)』

(研究員 金子 真夕)

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