中東かわら版

№29 ヨルダン:内閣改造(第3次ラッザーズ内閣)

 2019年5月9日、ラッザーズ首相は内閣改造を実施した(今回で3度目)。以下表のとおり、今般は6名の閣僚が任命された。さらに2省の名称が変更された。太字は初入閣(要人の詳しい経歴などは、中東クロノロジーで参照できます(会員限定))。

氏名

役職

備考

サラーマ・ハンマード

内務相

1995年1月-1996年2月内務相など。

ムハンマド・イスイス

計画・国際協力相兼経済担当国務相

元アブドッラー2世国王顧問

ニダール・バターイナ

労働相

2019年2月-5月ヨルダン市民サービス局部長

サアド・ジャービル

保健相

軍人(少将)

サーミー・ダーウード

首相府担当国務相

内閣府、首相府で書記官、事務局長などを経験。ヨルダン石油公社、ヨルダン空港会社役員。

ヤーシラ・グーシャ

制度運用開発担当国務相

女性。2016年6月-公共部門改革相など。

ムサンナー・ガラーイバ

デジタル経済・起業家精神相

通信・情報技術省から改変

ワリード・ミスリー

地方行政相

地方自治省から改変

 

 

評価

 ラッザーズ政権による内閣改造は今回で3度目となるが、ヨルダンの抱える最大の問題は経済と財政面にあると言え、今般の内閣改造でも経済、国民の労働環境、政府の財政に関係した人事が行われている。ヨルダンはパレスチナや近隣のイラクやシリア、リビアから来た難民・避難民を国内に多数抱えており、難民への対応は金銭面でアラブ諸国、欧州諸国からの支援に依存している。また、国内の経済問題も深刻である。対外債務は400億ドルを超えており、政府は所得税法の改正などの改革を進める必要があるが、ラッザーズ政権は財政状況を大きく改善するような成果を上げられていない。その要因の一つが経済改革に対する国民の抗議デモである。同政権は雇用創出や国内開発などを発表し、度々人事を変更することで、国民の不満をそらしてきたが、所得税の大幅な変更など国民に負担を強いる改革には着手できていない。

 こうした状況への対応の一環として、ヨルダン政府は、①イラクの復興を梃子にした二国間経済の活性化、②イラク・エジプトとの経済統合などによる国内経済状況の改善を試みていると思われる。この関係で今年の1月、同国のアブドッラー2世国王は11年ぶりにイラクを訪問し、マフディー首相と会談した。さらに同月ヨルダンはイラクと自由貿易協定を交わし、プラスチック、薬品、食品などの対イラク輸出品に係る関税が免除された。また組合レベルでもイラク国内への事業進出の案件が進められている。また、②について、エジプトがアフリカ、東アラブ、ヨーロッパ間の貿易・エネルギー・物流のハブ化を目指している中で、ヨルダンはエジプトと東アラブ地域をつなぐ際のルートとして機能する自国の立地を生かそうとしている。特に、イラクは、西側からの物流路としてヨルダンを必要としており、3カ国が経済関係を強化する動機は十分ある。事実、内閣改造と同日、ラッザーズ首相はエジプトのナッサール貿易産業相、イラクのジュブーリー産業・鉱物相とアンマンで会談しており、3カ国の経済統合の可能性について協議している。復興を今後の課題とするイラクやシリアへの陸路による物流面において、ヨルダンが果たす役割は大きく、仮に復興が本格化する場合、同国が経済的機会を得る可能性は十分あるだろう。

(研究員 西舘 康平)

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