中東かわら版

№27 イラン・米国:JCPOAの履行一部停止を表明

 5月8日、イランは、イラン核合意(JCPOA)の履行を一部停止し、認められた量以上の濃縮ウランを保有することなどを表明した。60日の猶予期間を設け、JCPOA当事国がイランの経済的損失に対する救済措置を取らない場合、核開発を本格化する方針をとる。

 この動きを受け、トランプ米大統領は、イランとの鉄・アルミニウム・銅セクターの取引を制裁対象とする旨の大統領令に署名した。また、ポンペオ米国務長官やフック・イラン担当特別代表(イラン行動グループ)は、米国のJCPOA離脱1周年に際した声明や講演の中で、今般のイランの動きを非難した。そして、イランが脅威であるという米国の分析が正しかったとして対イラン政策の成功を強調し、イランが米国主導の新たな核交渉に応じるまで最大圧力をかけ続けるとした。

 

評価

 今般の表明は、JCPOA当事国である5カ国、とりわけ欧州3カ国(英、独、仏)に対する牽制の意味合いが強いと見て良いだろう。昨年の米国によるJCPOA離脱と度重なる制裁に対し、これらの国々はイランからの支援要請に十分応えられてこなかった。EU圏内でのブロッキング規制や欧州投資銀行(EIB)の融資などの措置は、欧州企業の相次ぐイラン撤退を防げなかった。期待された特別目的事業体(SPV)は調整が難航し、設立された貿易取引支援機関(INSTEX)も加盟への条件付けや取扱品目が限定されるなど、イラン側の期待に応え得るものとなっていない。

 イラン側の要求は当初より明確で、JCPOAを履行できるように、残りの当事国がイランをサポートをすることである。このサポートには、米国のJCPOA離脱と制裁を非難し拒否することや、イラン産原油や銀行セクターといった経済利益を米国の制裁から守ることなどが含まれている。

 イランはJCPOAを足掛かりとして国際社会への復帰を企図してきた。そのため、国内外からの圧力を受けつつも、現政権は未だ国際協調路線を堅持している。今般60日の猶予期間を設けたのもこうした姿勢の現れといえるだろう。また、国際原子力機関(IAEA)の査察を留めおいていることから、JCPOAを尊重する意図が汲み取れる。

 他方、米国はイランの国際的孤立を更に深めさせようとしている。イラン・イスラーム体制の象徴であるイスラーム革命防衛隊(IRGC)を外国テロ組織(FTO)に指定した他、8カ国に与えられていたイラン産原油の禁輸免除措置も撤廃した。「イランの脅威」を理由に、中東への空母派遣も決定している。ポンペオ国務長官が声明の中でEUや域内諸国がイランに科した制裁などに触れたことからも、欧州とイランとの連携に傷をつけたい狙いが透けて見える。イランにとって最大の打撃となる制裁は既に昨年11月に発動済みのため、今次の制裁は大した影響力を持たない。イランを徹底的に追い込むというトランプ政権のパフォーマンスとしての意味合いが強いと見てよいだろう。

 米ドル主体の国際取引と国際銀行間通信協会(SWIFT)による国際金融取引体制が足かせとなり、EUを含め国際社会は米国に強く出ることができない。そのため、今般のイランによる揺さぶりに対し、JCPOA当事国が応えられる範囲は限られているだろう。しかし、イランが今後も現状に留まるためには、国際社会からの支援が必須である。EU内のイランに対する強硬姿勢の緩和やINSTEXの進展など、具体的な動きが少しでも出てくるか否かに注目したい。

(研究員 近藤 百世)

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