中東かわら版

№199 イエメン:立ち遅れる新型コロナウイルス対策

 2020年3月26日現在、イエメンでは中国で発生した新型コロナウイルスの感染者や、感染者の入国は確認されていない。しかし、同国では2014年以来の政治の混乱と紛争により、医療施設や上下水道などの大半が破壊されている上、紛争当事者間の戦闘も続いており、同国に感染が及んだ場合の被害が懸念されている。

 アデンを「臨時首都」とするハーディー前大統領派、首都サナアに拠るアンサール・アッラー(俗称:フーシー派)のいずれも、2月の時点で対策委員会を開催したり、高官が病院を視察したりする程度の対策を講じ始めた。これが、3月に入ると両派とも一応対策を強化し、来訪者の検査、新型コロナウイルスの感染者がいる諸国からの来訪者の隔離を決定(7日)、空港の閉鎖や航空便の運航停止(14日)のような措置をとるようになった。また、ハーディー前大統領派は、サウジの援助団体や国際機関からの資金や物資の援助を受けている。また、イエメンで本格的な防疫活動を行うためには戦闘の停止が不可欠であるが、これについては国連が両派に対し停戦を呼びかけた(25日)。

 

評価

 ハーディー前大統領派、アンサール・アッラーのいずれも、まったくの無為無策ではないものの、対策は立ち遅れており、実効性が疑わしい。両派は、ぞれぞれ傘下の国営放送(いずれも「サバ通信社」)を通じて取り組みを発信しているが、その大半は啓発キャンペーンのレベルにとどまっている。そもそも、イエメンでは長年の紛争・混乱により新型コロナウイルス対策よりもはるかに深刻な医療・保健上の問題が山積しており、2016年~2017年のコレラの流行生活必需品の不足や貧困率の上昇がその代表的な事例である。また、2600万人ほどの人口の8割が支援を必要としていると指摘されて久しい。

 こうした中、各国からの支援が有効に活用されたり、対策の前提になるであろう停戦が実現したりする見通しは楽観できない。例えば、諸外国や国際機関からの支援が紛争当事者の片方にのみ提供されても、イエメン全体が裨益できるわけではない。また、援助物資の荷下ろし拠点であるフダイダ港については停戦と港湾機能正常化の試みが頓挫している。最近の国連による停戦呼びかけに対しては、一応両派とも歓迎したものの、紛争当事者間の不信感は根強く、いずれも「相手方の出方を見る」かのような対応である。新型コロナウイルスの感染の有無以前に、イエメンの人道状況は深刻な状態である。にもかかわらず、国際的な関心が低く、事態打開の機運は乏しい。

(主席研究員 髙岡 豊)

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