中東かわら版

№196 サウジアラビア:新型コロナウイルス拡大の影響

 2020年3月2日、サウジで初となる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者が報告されて以降、同政府は感染拡大防止に向けた対策を講じてきた。主たるものは以下表の通り。

措置

1

25

中国在住の自国民に退避を勧告、同時に中国への不急な渡航を中止するよう呼びかけ

2

27

自国民及びGCC諸国の市民によるメッカ・メディナへの巡礼禁止

28

中国・韓国・日本人等に対する観光査証の発給停止

3

2

国内初の感染者。イランからバハレーン経由で帰国、イラン滞在について当局に報告せず

3

ジェッダで3月12~21日に開催予定だった紅海国際映画祭が無期延期

7

学校・大学が3月9日より休校

UAE・クウェイト・バハレーンとの陸路・海路による出入国を禁止

8

住民のイラン・サウジの往来が多い東部州カティーフ市を封鎖

9

入国検問所で病状について虚偽申告した者に50万リヤルの罰金が科されると発表

金曜礼拝の説教を15分以内とするようモスクに指示

12

陽性反応が出た人のモスクでの礼拝参加を禁止

ヨーロッパ及びアジア・アフリカの12カ国との間の渡航を禁止

14

ショッピング・モールやレストランに閉店を指示、政府機関職員に16日間の自宅待機を命令

17

メッカの聖モスクとメディナの預言者モスク以外のモスクでの集合礼拝及び金曜礼拝の禁止

(出所:公開情報をもとに筆者作成)

 この通り、サウジのCOVID-19拡大防止策が活発化したのは2月下旬である。影響は広範囲に及び、国内初感感染者が報告された一週間以内に学校の休校、一部国境の封鎖、病状に対する虚偽申告の罰則化、さらには不特定多数が集まる宗教儀礼にも制限がかけられた。さらにその後、約一週間の間にショッピングモールやモスク(礼拝所)の閉鎖が決定され、人々のルーティーンを制限する措置に踏み切った。

 

評価

 サウジは、2月下旬以降、国内での初感染者についての報告を待たずに、積極的なCOVID-19拡大防止策に取り組んできた。この背景は複数考えられるが、2月19日の中東でのCOVID-19による初の死者(イラン)の報告は重要であろう。その後、2月24にはクウェイトやバハレーンといった周辺国で初感染者が報告されたことで、危機意識が急激に高まったと考えられる。

 また、拡大防止策に徹底さが見られる理由としては、一つに11月21~22日にリヤドで開催されるG20に及ぶ影響を可能な限り弱めたいとの意図がある。G20主催に合わせて、サウジは例年2~4月にリヤド郊外で行う文化祭典ジャナードリーヤを秋にずらし、さらにUAEとの共通入国査証の発給を計画して、やはり今秋から開催予定のドバイでの万博とのタイアップを図ることでインバウンド消費を見込んできた。しかし拡大防止策による経済的影響をより受けるのはメッカ・メディナであろう。すでに、関連省庁は巡礼禁止措置によって両都市の経済収益が40%低下するとの見通しも示しているが、2020年の巡礼月(7月22日~8月19日)になっても巡礼に規制が残るようなら、経済収益のさらなる低下が見込まれる。

 こうした背景から、サウジの取り組みは世界各国と比べて迅速なものと評価できると考えられる。もちろん、市民の日常生活や私権に影響が及ぶ措置を講じうる上では慎重さが求められるが、一方でCOVID-19拡大防止策によって市民の生活に支障が出れば、事後に補助金で保障する程度の財政的余裕を政府は持っている。さらに言えば、サウジ国民は「国難」を過ぎれば国王ないし政府から何らかの報償がなされる可能性があることも経験として知っている(例えば2011年3月、「アラブの春」のデモ予告に国民が参加しなかったことに国王が謝意を表明し、補助金増額等の国王令を出したこと)。こうした事情が、本件に対する迅速な対応を可能にしていると考えられる。

(研究員 高尾 賢一郎)

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