中東かわら版

№193 サウジアラビア:有力王族の逮捕

 2020年3月6日に、サウジのアフマド・ビン・アブドゥルアジーズ王子(78歳)とムハンマド・ビン・ナーイフ王子(60歳)を含む王族が逮捕されたと、CNN等の欧米メディアが報じた。逮捕された王族は20名以上、容疑は内務省高官らを巻き込んでの宮廷クーデターを計画したためと伝えられる(サルマーン国王及びムハンマド皇太子(MbS)の追放)。逮捕された王族として、アフマド王子の息子ナーイフ王子(陸軍諜報部隊長)と、ムハンマド王子の異母兄弟ナウワーフ王子の名前も伝えられている。

 アフマド王子はアブドゥルアジーズ初代国王の息子で、ハッサ王女を母とする有力家系「スダイリー家」の嫡子としては最年少である。2012年6月に内相に就くが同11月に解任され(本人の意向とも言われた)、その後は主要ポストから遠ざかっていた。彼の後任として内相に就いたのがムハンマド王子で、2015年4月には皇太子兼第一副首相にも任命された。しかし2017年6月に、現皇太子であるMbSにはじき出される形で同職を解任され、その後はやはり主要ポストから遠ざかっていた。

 今般の前皇太子を含む有力王族の逮捕については、MbSの政敵の排除といった見方が強いが、サウジ国内のメディアは本件について一切報じておらず、公式発表もない。

 

評価

 王族の逮捕と言えば、2017年11月にMbSが指揮した数十名規模のものが思い出される(2017年『中東かわら版』No.116)。この逮捕劇は国内で、「私腹を肥やす王族を逮捕して不正を一掃するMbS」というストーリーで報じられた。これに対して、今般の逮捕劇は(欧米の報道が事実だとすれば)秘密裡に実施された点で、公益や市民の期待に応えるものとして語るのは難しかったのだろう。王族内に人望が強いアフマド王子と、米国との強いパイプと内相としてのキャリアを誇るムハンマド王子は、いずれもMbSの台頭で割を食った人物だとサウジ国内で見なされている。そしてこのことが絶えず、両王子が支持者を集めてクーデターを画策しているとの噂の根拠になってきた。その支持者が多いとされるのが、両王子が長を務めた内務省である。このためMbSは、2018年12月に内務省の権限低下につながる諜報機関の再編等に着手したが(2018年『中東かわら版』No.96)、今般の逮捕劇はより直接的な内務省への干渉と言えよう。

 逮捕劇のタイミングについては、サルマーン国王の崩御が近いためMbSが権力基盤固めを急いだとの見方もあるが、国王の健康状態については定かでない。あるいは、遅かれ早かれ行うべき政敵の排除を、新型コロナウイルス拡大の余波でメッカ巡礼が禁止になる等、世相が騒がしい状況に紛れて決行した可能性も考えられよう。

(研究員 高尾 賢一郎)

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