中東かわら版

№192 レバノン:債務不履行を宣言

 2020年3月7日、レバノンのディヤーブ首相は9日に償還期限を迎える債務12億ドルをはじめとする同国の債務(ユーロ債。表示通貨国の外で発行された債権。ここでいう「ユーロ」はEU諸国の単一通貨のことではない)の支払いを停止すると発表した。同首相は、国益に沿うべく債権者と債務の再編のための交渉をすると表明するとともに、債務の支払いに充てるはずだった外貨をレバノン人民の基礎的な需要を保証するために使う必要があると述べた。また、同首相は、公的債務対策のための改革計画を準備すること、様々な分野が必要とする物資を確保すること、債務対策を新たな独立戦争と位置付けることを表明した。しかし、同首相は公的債務についてIMFがレバノン政府に勧告した助言には触れなかった。

 なお、レバノンの公的債務は900億ドルに達すると推定され、そのうち46億ドルが2020年中に返済期限を迎える。

 

評価

 レバノン政府の財政の立て直し策としては、歳出削減や確実な徴税が考えられる。また、現在も続行中の反政府抗議デモの要求事項でもある、汚職の追及も重要な対策とみなされる。しかし、宗教・宗派共同体を政治的権益の配分対象とし、固定的・硬直的な権益の配分を続けてきたレバノンの政治・経済の中で、各共同体を代表する地位についてきた有力政治家や経済人の既得権益を侵害するような対策が取られることは考えにくい。仮にそのような対策が迅速に実施されるようならば、これまでのレバノンの政治・経済・社会の体制を抜本的に改変することも意図した対策としなくてはならないだろう。

 2020年1月のディヤーブ内閣の組閣以来、レバノン政府はIMFとも交渉を続けてきたが、債務対策としてIMFの支援を受けることには有力与党のヒズブッラーが反対している模様である。債務問題に抜本的な対策をとっても、対策を取らずに破綻に至っても、レバノンの政治・経済・社会の体制と、その中の主要な当事者間の関係が動揺する可能性が高い。

(主席研究員 髙岡 豊)

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