№190 チュニジア:ファフファーフ内閣の成立
2020年2月27日、イリヤース・ファフファーフ(タカットル党)を首相とする連立内閣が議会において信任された。大臣30名、大臣付き書記2名から構成され、宗教問題相以外は皆新任となる。
2019年10月の議会選挙から4カ月以上に亘り組閣が難航した背景には、政党間の対立による組閣交渉の長期化、議会による閣僚リストの不信任があった。憲法が許す組閣期限(3月中旬)の直前で連立内閣が成立し、再選挙を免れた形となる。
ファフファーフ新内閣(下記参照)には、議会第1党のナフダ党(52議席)、第3党の民主潮流党(22議席)、人民運動、タヒヤ・トゥーニス党、チュニジア選択肢党、チュニジア呼びかけ党が参加し、第2党のチュニジアの心党(38議席)は野党になった。
首相 |
イリヤース・ファフファーフ |
タカットル党;暫定観光相(2011-2014);暫定財務相(2012-2013) |
法相 |
スラヤー・ジャリービー |
前破棄院判事;女性 |
内相 |
ヒシャーム・マシーシー |
現大統領顧問(法律担当) |
国防相 |
イマード・ハズギー(ハズキー) |
国家情報アクセス機構長;判事出身 |
外相 |
ヌールッディーン・ライ |
元クウェイト大使、オマーン大使 |
財務相 |
ムハンマド・ニザール・ヤイーシュ |
コンサルタント |
開発・投資・国際協力相 |
スリーム(サリーム)・アザービー |
タヒヤ・トゥーニス党;元大統領府長官(2016-2018) |
国有資産・不動産問題相 |
ガージー・シャウワーシー |
民主潮流党;現国会議員 |
職業訓練・雇用相 |
ファトヒー・ベルハージ |
人民運動 |
社会問題相 |
ハビーブ・カシュー |
元社会問題省顧問(2012-2015) |
運輸・物流担当国務相 |
アンワル・マアルーフ |
ナフダ党;前通信技術・デジタル経済相(2016-2020) |
地方問題相 |
ロトフィー・ザイトゥーン |
ナフダ党;ジャーナリスト出身 |
環境相 |
シュクリー・ベルハサン(ベン・ハサン) |
タヒヤ・トゥーニス党;前首相付き書記(社会連帯経済担当) |
農業相 |
ウサーマ・ハリージー |
国立農作物研究所所長 |
産業相 |
サーリフ・ベン・ユースフ |
民間企業出身 |
エネルギー・鉱物・エネルギー転換相 |
ムンギー・マルズーク |
元エネルギー・鉱業相(2016);情報通信技術相(2011-2014) |
観光相 |
ムハンマド・アリー・トゥーミー |
チュニジア選択肢党 |
貿易相 |
ムハンマド・ムセリニー |
人民運動 |
通信技術・デジタル経済相 |
ムハンマド・ファーディル・カリーム |
チュニジア通信組合事務局長 |
インフラ・住宅・国土保全相 |
ムンシフ・スリーティー |
ナフダ党;元インフラ省大臣官房室長 |
宗教問題相 |
アフマド・アズーム |
2017年2月~現職 |
女性・子ども・家族問題相 |
アスマー・スヒーリー |
チュニジア国立行政学院学長;女性 |
保健相 |
アブドゥルラティーフ・メッキー |
ナフダ党;元保健相(2011-2014) |
高等教育・科学研究相 |
スリーム(サリーム)・シューラー |
ナフダ党;前高等教育・科学研究省科学技術研究局長 |
教育相 |
ムハンマド・ハームディー |
民主潮流党;元高校教師、組合員 |
青年・スポーツ相 |
アフマド・ガアルール(カアルール) |
ナフダ党;青年・スポーツ相付き書記(スポーツ担当) |
文化相 |
シーラーズ・ラアティリー(アティーリー) |
女性;メディア学教授 |
公務員・行政改革・汚職撲滅担当国務相 |
ムハンマド・アブー |
民主潮流党党首;首相付き大臣行政改革担当(2011-2012) |
首相付き大臣(大規模国家プロジェクト担当) |
ルブナー・ジャリービー |
NGO「Solidar Tunisie」代表;女性 |
首相付き大臣(憲法機関・市民社会・人権担当) |
アイヤーシー・ハマーミー |
チュニジア人権擁護連盟(LTDH)執行局員 |
議会関係相 |
アリー・ハフシー |
チュニジア呼びかけ党;国会議員 |
(出所)国営TAP通信をもとに筆者作成。
評価
これまでチュニジアでは、党派利益の追求による政党間対立を防ぐため、無所属の専門家を閣僚としたテクノクラート内閣が形成されることが多かったが、今回は議会選挙の結果(『中東かわら版』No.115、2019年10月11日)を反映させ、政党所属者が多い連立内閣となった。組閣交渉の過程で複数の政党から「国民の意思(選挙結果)を反映した内閣」を形成するようファフファーフ首相に要求があったためである。選挙結果を反映して多くの政党が連立内閣に参加し、連立内で広範な政治的代表が確保されれば、国民の信を得た政府と言えるためであろう。
しかし、今後も連立内部の対立は続くと予想される。連立の中心となるナフダ党は、多くの世俗派政党から「イスラーム主義」とみなされ、不信感を抱かれており、ナフダ党と世俗派政党の対立はこれまでと変わらず続くだろう。さらに野党となった第2党のチュニジアの心党もナフダ党を毛嫌いしており、同党への攻撃を続けると思われる。したがって、連立政権の安定性や政策実行能力を分析する上では、ナフダ党が諸政党との関係をどのように調整していくのかが重要となるだろう。
(研究員 金谷 美紗)
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