中東かわら版

№188 イスラエル:再々選挙の暫定結果

 2020年3月2日、イスラエルで3度目の議会選挙が実施された。投票の最終結果は4日の朝(イスラエル時間)に発表される予定である。以下は中央選挙委員会が発表した出口調査の結果の報道を表にしたものである。

・出口調査の結果(集計率6.57%) 

 

(https://www.jpost.com/Israel-Elections/Israeli-elections-CEC-announces-first-results-619541)

選挙結果は、下記の中央選挙委員会のホームページで随時更新中。

(https://votes23.bechirot.gov.il/

 

 また、今般の選挙に関して、イスラエルの経済紙『Calcalist』の3月2日付コラムは、政府予算との関係で以下の点を指摘している。

  • 2019年度中に議決が行えず、予算編成もできなかったため、2020年度の予算は、2019年度の予算3970億シェケル(約1140億ドル)に、消費者物価指数の変動分30億シェケル(8億6400万ドル)を合わせた4000億シェケル(約1145億ドル)で計上されている。
  • イスラエルの財政に鑑みれば、本来、2020年度予算は4120億シェケル(1180億ドル)で計上されるべきである。他方、各省庁が提出した2020年度の予算案は4200億シェケル(1200億ドル)である。予算が最終的に議決されても、省庁の予算を削減する必要がある。
  • 財源不足に加えて政府機関を運営する上での問題は、各部署やプロジェクトに充てられた資金を動かせないため、重要なプロジェクトが保留になることである。
  • 2019年度予算に基づいて計上された2020年度予算は、大幅な削減と増税をもたらし得るだろうが、ネタニヤフ首相に反対する者達はこれを良しとしないだろう。

評価

 出口調査によると、リクードが前回2回の選挙と比べて議席数を伸ばしている。イスラエルのメディアは、その理由として、ネタニヤフ首相が1月28日に米国の中東和平案が公表されたことを皮切りに、西岸地区の入植地併合に係る作業部会を設置し、度々メディアを通じて入植地の併合をアピールしてきたことや、新型コロナウイルス対応として外国人の入国制限・拒否を発表し、「ダイヤモンドプリンセス」船内で隔離されていたイスラエル人の帰国に注力したことなどを挙げている。

 リクードが議席を伸ばしたとはいえ、今次選挙の結果は、過去2回の選挙結果と比べて大きな変化は無いようだ。ネタニヤフ首相の組閣への参加を表明しているシャス、ユダヤ・トーラー連合、ヤミナの議席を合わせても59議席であり、過半数(61議席)を超えていない。他方、リクードの対抗馬と目されてきた中道左派の「青と白」は32議席に留まっている。

 リクードを中心とする右派・宗教政党が過半数を超えないまま選挙が終わる場合、その後の組閣についても、過去の選挙と比べて大きな変化は見られないと思われる。特に、右派・宗教政党が過半数を超えるためには、イスラエル・ベイテヌのリーベルマン党首の協力を必要とする。もっとも、同人は、2018年11月にガザ地区で発生したイスラエル軍兵士とハマース要員との交戦に際し、首相が事実上の停戦措置に踏み切ったことを批判し、ハマースへの徹底的な攻撃を求めた挙句に国防相を辞任した人物である。同人は、ネタニヤフ首相の退陣と宗教政党の内閣からの排斥をリクードに対して主張しているため、リクードが同党と連立する場合は、宗教政党と手を切る必要がある。過去2回の選挙では、リーベルマン氏の主張に「青と白」が賛同を示したことで、ネタニヤフ首相を排除した挙国一致内閣の樹立が選挙の争点となってきた経緯もある。

 他方、昨年懸念されていた予算編成の問題は、今年に入り予算不足という形で表面化し、省庁の予算縮小や増税など具体的な措置が求められる事態となっている。今後、組閣が滞ることになれば、予算に限らず国内の行政や外交、安全保障面の政策を実施する中で、議会の不在を原因とする問題が表面化する可能性がある。各党がそれら問題の回避や解決を優先しようとするのであれば、組閣のプロセスが進む可能性は高くなるだろう。

(研究員 西舘 康平)

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