№182 アフガニスタン:大統領選挙最終結果の発表
2020年2月18日、独立選挙委員会(IEC)は昨年9月28日に実施された大統領選挙の最終結果を発表した。暫定結果から上位2者に変更はなく、第1位得票者はアシュラフ・ガニー候補(現大統領。パシュトゥーン人)、第2位得票者はアブドッラー候補(現行政長官。タジク人、但し父親はパシュトゥーン人)である(詳細は図表1参照)。ガニー候補が過半数を得票したことで、憲法第61条に基づき、決選投票には進まず、最終結果が確定した。今次選挙における登録有権者数は966万5745人、有効投票数は182万3948票(投票率:約18.8%)であった。
図表1 2019年大統領選挙候補の得票順位(最終)
候補者名 |
得票数(票) |
得票率(%) |
アシュラフ・ガニー |
923,592 |
50.64 |
アブドッラー・アブドッラー |
720,841 |
39.52 |
グルブッディン・ヘクマティヤール |
70,241 |
3.85 |
ラフマトッラー・ナビール |
33,919 |
1.86 |
ファルアムラズ・タマナー |
18,063 |
0.99 |
サイード・ヌールッラー・ジャリーリー |
15,519 |
0.85 |
アブドルラティーフ・ペドラーム |
12,608 |
0.69 |
エナーヤトッラー・ハフィーズ |
11,375 |
0.62 |
ムハンマド・ハキーム・トールサン |
6,500 |
0.36 |
アフマド・ワリー・マスード |
3,942 |
0.22 |
ムハンマド・シャハーブ・ハキーミー |
3,318 |
0.18 |
ゴラーム・ファルーク・ナジラービー |
1,608 |
0.09 |
ムハンマド・ハニーフ・アトマル |
1,567 |
0.09 |
ヌール・ラフマーン・リーワール |
855 |
0.05 |
合計 |
1,823,948 |
100.00 |
(出所:IEC発表を元に筆者作成)
同日、アブドッラー候補は記者会見を開き、IECの決定は違法だと非難するとともに、今次選挙における勝者は自身だと宣言し、並行政府を樹立すると反論した。
また、同日、ターリバーンのムジャーヒド報道官は声明を発出し、「占領下での選挙という名の見世物」だとして存在自体を否定するとともに、今次結果についても違法でありイスラーム法体系に適っていないとする立場を示した。
評価
最終結果発表に当たっての最大の焦点は、IECが、アブドッラー候補が不正票と見做す約30万票を無効にするかどうかであった。暫定結果発表(昨年12月22日)後、独立選挙不服申立委員会(IECC)には16,000件を超える不服・苦情が申し立てられ、その裁決には約2カ月を要した。それにもかかわらず、今回発表された最終結果の得票順位は、暫定結果のそれ(『中東かわら版』No.161参照)と同じであり、無効にされた票数はたったの453票に留まった。このため、今次発表は、アブドッラー陣営の観点からすれば、IECが最終結果を強硬に発表したと呼べるものであり、勝者と敗者の間で権力を巡る諍いが紛糾するリスクを残した。度重なる延期、並びに、選挙過程の長期化を受けて、ガニー大統領の任期が法的根拠を失った現状に鑑みれば(※)、IECが発表に踏み切った背景には、和平に向けた取組みが本格化する中でなるべく早期にガニー大統領に正統性を付与するとの判断が働いた可能性が指摘できよう。
しかしながら、上述の不正疑惑に加えて、今次選挙における投票率の低さは、むしろガニー政権の正統性に大きな疑問符を付けたと言える。確かに、憲法、及び選挙法等の民主的手続きに基づき選出されたとは言え、投票率は18.8%で過去最低であった。事前の有権者登録に向けて治安事案が多発した他、米国・ターリバーン間の和平に関する協議の進展等により、今次選挙に対する国民の関心が低下したことは、仕方がないとも言える。他方、ガニー候補が国民のごく一部からしか信託を得ていない事実には変わりがなく、この権力基盤の脆弱さは、将来の政権運営、及びターリバーンとの対話において急所になると考えられる。
その一方で、今次結果は、カタルで進展する米国・ターリバーン間の和平に関する協議にも影響を与えると考えられる。2月下旬にターリバーンが7日間、暴力を削減することを約束した代わりに、米国はターリバーンの合意履行を条件に、2月29日にも和平に関する取引に合意する立場を示している。その後、暴力の削減が順調に進んだとの前提の上で、3月中旬に、アフガニスタン人同士の協議が開始される見通しである。かかる状況下、協議の当事者であるガニー政権が権力を巡って内部分裂した状態では、もう一方の当事者であるターリバーンを利することになる。政治有力者が私利をひとまずは忘れ、国の将来の為に抑制的な行動を取ることが出来るか否かが、今後の和平過程の進展を推し量る指標となる。
※憲法第61条によれば、大統領任期は、前回選挙後の5年目のジョウザー月1日(西暦の5月21日)に失効することになっている。これに従えば、ガニー大統領の任期は2019年5月に失効しており、同人が大統領職を務める法的根拠はないことになる。
【参考情報】
*関連情報として、下記レポートもご参照ください。
<中東かわら版>
・「アフガニスタン:大統領選挙前の動向」『中東かわら版』No.102
・「アフガニスタン:大統領選挙暫定結果を巡る抗議デモの発生」『中東かわら版』No.148
・「アフガニスタン:大統領選挙が過去最低の投票率を記録」『中東かわら版』No.161
(研究員 青木 健太)
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