中国で発生した新型コロナウイルスの問題は、中東諸国でも大きな反響を呼んでいる。これを受け、各国は自国民の退避や出入国管理、検疫などの諸分野で、様々な対策を講じている。本稿執筆時点で中東諸国がとっていることが確認できる諸措置は以下の通り。
国名
|
主な措置
|
アフガニスタン
|
- 陸・空の入国者に対し、保健省が派遣したチームがスクリーニングを実施。
|
イラン
|
- 中国発着の航空便全便を一時停止(1月31日より)。
- 武漢からイラン国籍者56人が帰国(2月5日)し、2週間の検疫を受けている。
|
トルコ
|
- 武漢に滞在中のトルコ人を帰還させるためトルコ軍貨物機を派遣(2月1日)し、トルコ人32人、アゼルバイジャン人6人、グルジア人3人、アルバニア人1人を含む全42人を移送した。到着後アンカラの病院に搬送し、14日間隔離する。また、同貨物機に搭乗していた乗務員と医療スタッフも病院に入院する。
- 2月末まで中国-トルコ間の航空便全便を運航停止。再開時期については2月末に検討予定。
- サーマルカメラによる体温測定を中国、日本、韓国、台湾、タイ、香港、シンガポール、マレーシア便で実施。
- 中国からの全ての動物・動物製品(家禽、魚介類、軟体動物、動物性脂肪など)の輸入を一時的に停止(2月7日)。
|
イラク
|
|
クウェイト
|
- 中国・香港行き航空便全便の一時停止。
- 中国及び発症例のある全ての国への渡航延期勧告。
- 新型コロナウィルスに感染の疑いがある中国人の入国拒否。
|
バハレーン
|
- 中国及び発症例のある全ての国への渡航延期勧告。
- 中国人の入国禁止について検討中。
|
カタル
|
|
UAE
|
|
サウジアラビア
|
- 中国行の航空便全便を一時停止。
- 自国民及び自国居住者に対して中国大陸への渡航を禁止。違反者は旅券等の差し押さえ。
- 中国に在住、及び渡航中の外国人サウジ居住者の帰国は認めない。
- 中国に在住、及び渡航中のサウジ人で帰国を希望する者は、到着2週間前に当局に連絡すること。
|
オマーン
|
- 中国行きの航空便全便の一時停止。
- 中国への渡航延期勧告。
|
イエメン
|
- ハーディー前大統領派、アンサール・アッラーともに、関係省庁会合を開催して対策を協議。
|
シリア
|
- 出入国地点で検温を実施。
- レバノン、ヨルダンとの通過地点には医療要員を派遣。
- トルコ軍が占領するアレッポ県北部では、新型コロナウイルスによる死亡例が出たとの情報もあり。
|
レバノン
|
- ベイルート、トリポリの両港で、安全が確認されるまで中国船舶の入港を拒否(2月1日)。
- ベイルート空港で入国者の検査を実施。
|
ヨルダン
|
- 陸・海・空からの入国者を設置型・ハンディ型のサーモグラフィックで検温、感染の兆候を監視。
- コロナウイルス感染者のいる地域への渡航延期を勧告。
- 中国から帰国した者および、中国人を病院に搬送し、14日間隔離。
|
イスラエル
|
- エルアル航空の中国行きの便を3月25日まで全便欠航。
- 保健省が、中国、香港、タイ、日本、シンガポール、韓国、マカオから帰国した者に対し、発熱やせき等がある場合、医療機関に受診するよう指示。
- タイ、日本、香港、シンガポール、マカオ、韓国、台湾への不要不急の渡航を止めるよう勧告。中国への渡航自粛を勧告。
- 非イスラエル国籍、および、非居住者以外の者で、イスラエル入国より14日以内に中国を訪問した者は入国を拒否する。
|
パレスチナ
|
- 武漢に留学したパレスチナ人7人を検査のためヨルダンの病院に搬送。
- ジェリコの越境・国境管理局に医療要員を派遣し、コロナウイルス患者のいる国から来た者に対する検査を実施。
|
エジプト
|
- エジプト航空、中国便の全便を次にアナウンスがあるまで停止すると発表。
- 武漢から退避したエジプト人301人がアラメイン空港に到着(2月3日)。マトルーフで14日間隔離する。
|
リビア
|
- リビア外務省(GNA)、中国への渡航回避を勧告(1月29日)。
- トリポリのミティーガ空港で、到着者のスクリーニングを開始(2月1日)。
|
チュニジア
|
- 保健省は、チュニジア人及び中国からの観光客の合計約350人を医療チェックしていると発表(2月7日)。検疫のため14日間隔離する。
|
アルジェリア
|
- アルジェリア航空は中国便を停止することを発表(2月3日)。
- アルジェリア人・チュニジア人・リビア人・モーリタニア人計60人が、アルジェリア航空で武漢からアルジェに到着した(2月3日)。
|
モロッコ
|
- ロイヤル・エア・モロッコは、1月31日~2月29日の期間で中国直行便(カサブランカ・北京)を停止すると発表(1月30日)。
- 武漢からモロッコ人167人帰国(2月2日)。帰国者は検疫のため20日間隔離される。
- 国内の空港、港など全ての出入国地点で、健康監視の実施を開始した(2月3日)。中国からの直行便、または経由便で帰国する全ての乗客は、サーマルカメラでチェックする。
|
評価
中東諸国の中には、中国との間の航空便の運休や中国人・中国滞在者の入国拒否、新型コロナウイルス感染者がいる国や地域への渡航の制限などの措置を講じている国がある。日本もすでに諸措置の対象になっている事例もあるため、中東諸国への渡航についても各国がとっている措置を事前に確認することが望ましい。また、今後の感染者数と感染地域の範囲の推移によっては、新たな措置が講じられることも予想される。
イエメン、シリア、リビアのように、紛争により国土の一部に政府の統制が及んでいない国については、政府や領域を統制している当事者がどのような措置をとっているのかわかりにくかったり、実質的に何の対策も講じられていないと思われる場合もある。過去数年のイエメンでのコレラの蔓延のように、紛争地域では疫病の防疫や治療のための対策が著しく困難になることもあるため、新型コロナウイルスの紛争地への拡大には警戒が必要であろう。
(中東調査会)