中東かわら版

№176 イラン:米国が原子力庁への経済制裁、及び、人道支援強化を発表

 2020年1月30日、米国のフック・イラン担当特別代表は、イランに対して追加制裁、及び、人道支援強化を行うとして、概要以下の通り発表した。

 

  • イラン原子力庁、及びサーレヒー長官に制裁を科す(大統領令13382に依拠)。トランプ大統領は、イランの核保有を断固阻止する考えであり、今次措置は大量破壊兵器の拡散防止を目標とする。同機関・人物は、ウラン濃縮活動の拡大、最新の遠心分離機の設置など、核合意違反を先導した。また、米国は、イランに対して科している4つの核開発制限を、60日間延長する。
  • 一方、米国は、癌用薬、及び臓器移植用薬のイラン向け販売・輸送を完了した。米国の対イラン戦略の根幹は、イランの体制ではなく人々に寄り添うものである。スイス政府の協力の下で設置された、人道支援物資取引の為の新しい財務制度に沿って実行された。各民間企業が、更にこの制度を活用することを望む。

 

 これに対し、同日、イランのキャマールヴァンディ原子力庁報道官は、新制裁は米国の万策が尽きたためで全く価値がない、イランの平和的核利用は自国の必要に応じて継続する、と反論した。

評価

 本年1月8日にトランプ大統領が演説で表明した通り、米国は軍事行動でなく経済制裁を通じて政策変更を促す策略を継続する方針を示した。今回の追加制裁は、この一環で発動されたものと考えられる。米国は、1月10日にも地域の不安定化に寄与しているとして鉱業分野に対する制裁を科していた。今回、特に、米国が原子力庁を標的としたことは、米国がイランによる核兵器保有の阻止を重視しているためと言えよう。

 一方で、今回、米国はイラン向け医薬品の輸送完了をアピールし、イランの人々の側に寄って立つ姿勢も見せたが、その狙いは、イランの人々の反体制感情を煽り、体制を不利な立場に追いやることにあると考えられる。昨年11月中旬、ガソリン価格引き上げを受けた抗議デモの際、治安部隊がデモ隊に発砲し弾圧したことで、ハーメネイー師を最高指導者とする現体制の国民を蔑ろにする姿勢や、悪化する経済情勢に対する人々の不満感情は高まっていた。ソレイマーニー司令官殺害事件により一度は反米感情が強まったものの、ウクライナ機誤射の隠蔽を受けて、人々は体制に対する不信感を募らせている。米国としては、この状況を利用し、硬軟両戦術を通じて、イランを更に追い込む意図があると考えられる。

(研究員 青木 健太)

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