№173 レバノン:新内閣が発足
2020年1月21日、アウン大統領はハサーン・ディヤーブ首相ら閣僚20人からなる新内閣を任命した。アウン大統領とディヤーブ首相は、この内閣を「レバノン救済政府」と称した。閣僚人事は以下の通り。
役職 |
氏名 |
主な経歴など |
首相 |
ハサーン・ディヤーブ |
2011年~2014年教育相 |
財務相 |
ガージー・ワズニー |
アマル枠 |
内相 |
ムハンマド・ファフミー |
少将 |
副首相兼国防相 |
ザイナ・アクル・アドラー |
女性。大統領・強いレバノン会派枠 |
外相 |
ナーシーフ・ヒッティー |
大統領・強いレバノン会派枠 |
通信相 |
タラール・ハワート |
対話フォーラム枠 |
保健相 |
ハマド・アリー・ハサン |
ヒズブッラー枠 |
エネルギー相 |
ライムーン・ガジャル |
大統領・強いレバノン会派枠 |
公共事業・運輸相 |
ミシェル・ナッジャール |
マラダ潮流枠 |
情報相 |
マナール・アブドゥルサムド |
女性。民主党枠 |
司法相 |
マーリー・クロード・ナジュム |
女性。大統領・強いレバノン会派枠 |
社会問題・観光相 |
ラムジー・マシュラフィーヤ |
民主党枠 |
教育相 |
ターリク・マジュズーブ |
|
工業相 |
イマード・フッブッラー |
ヒズブッラー枠 |
労働相 |
ラミヤー・ヤミーン・ドゥワイヒー |
女性。マラダ潮流枠 |
環境相兼行政改革相 |
ドゥミヤーヌス・カッタール |
|
経済・貿易相 |
ラーウール・ナアマ |
大統領・強いレバノン会派枠 |
避難民担当相 |
ガーダ・シャリーム |
女性。大統領・強いレバノン会派枠 |
農業相兼文化相 |
アッバース・ムルタダー |
アマル枠 |
青年・スポーツ相 |
ファールティー・ウーハニヤーン |
ターシュナーク党枠 |
評価
2005年にレバノン駐留シリア軍が撤退して以来、レバノンの政局や閣僚等の人事は、ヒズブッラーなど親シリア色が強い「3月8日勢力」と、ムスタクバル潮流、レバノン軍団、進歩民主党など反シリア色が強い「3月14日勢力」が、互いに閣議や国会で重要な決定を阻止できる3分の1を押さえ、相互にけん制し合い、均衡を図ってきたことに特徴づけられる。これに対し、今般の閣僚人事は、閣僚の人数が2019年1月末に任命された内閣の30人から20人に減少した上、ムスタクバル潮流、レバノン軍団、進歩国民党の閣僚枠が明示的には設定されなかった。また、ディヤーブ首相を除き、全員が新入閣の上、国会議員のような役職の経験者でもないことも特徴的である。
これは、2019年10月以来の抗議行動で既存の政治エリートが厳しい非難にさらされていることに起因している。しかし、各党派や大統領、首相らが各々の閣僚輩出枠で宗派や党派の均衡が図られており、新内閣が非党派的な専門家の内閣として抗議行動参加者らに受け入れられるかは予断を許さない。今後、新内閣は国会で信任された上で、フランスなどの支援国から現在の経済危機を脱却する上で必要な支援を受けるための交渉や諸般の改革措置の実行、そして予算の編成という難題に取り組まねばならない。諸外国はレバノンへの支援は新政府の発足が前提との立場をとっていることから、内閣発足は明るい兆しとも考えられる。ただし、政治経験に乏しい閣僚が、様々な課題を諸宗派・党派の全会一致を達成し、なおかつ抗議行動に代表される世論を納得させつつ解決するという点で、新内閣の行く手は平坦ではないだろう。
(主席研究員 髙岡 豊)
◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/