中東かわら版

№168 イラン:革命防衛隊が「殉教者ソレイマーニー」作戦を開始

 2020年1月8日、イラン・イスラーム革命防衛隊(以下、革命防衛隊)は、「殉教者ソレイマーニー」作戦を開始し、イラクのアンバール県にあるアイン・アサド基地を地対地ミサイル(射程距離500キロメートルのファーテフ313と見られる)で攻撃した。革命防衛隊が発出した声明の概要は以下の通りである。

 

  • 大悪魔の、残酷で高慢な米国に警告を与える。(イランに対する)新たな悪行、侵害、それに類する動きは、さらに痛みの伴う、激しい反撃になる。
  • テロリスト軍(米軍を指すと思われる)に対して基地を提供する全ての米国同盟国に警告する。イランに対して敵対的な行為の起点となることがあれば、それらの国も標的になる。
  • 我々は、こうした犯罪において、シオニスト体制(イスラエル)が犯罪体制米国と別のものとは認識しない。
  • 米国民に対して勧告する。更なる甚大な被害を予防するためには、米兵を地域から撤退させるべきである。人民からの憎悪を日々増大させる米国の愚行により、米兵をこれ以上危険に晒すべきではない。

 

評価

 1979年の革命体制樹立以来、イランにとっての最優先事項は体制の存続であると考えられる。イランの観点からすれば、基本的に、圧倒的な軍事力の差がある米国とのこれ以上の衝突は、自らの立場を不利にする。3日、最高指導者ハーメネイー師は「激しい復讐」を誓ったが、それ以上に事態をエスカレートさせる立場にまでは言及していない。同様に、8日、ザリーフ外相も、今次攻撃は国連憲章第51条に基づく自衛権の行使であり、事態のエスカレートや戦争を望んでいない旨を表明している。他方、ソレイマーニー司令官殺害という衝撃的な事態を受け、イラン国内で報復を求める声は日に日に強まっていた。諸要素を勘案して、イラクの米軍基地に対する今次攻撃に至ったと考えられる。米国側の反応をはじめ予測不能な部分は依然として残ることから、今後の見通しを過度に楽観視することは控えるべきである。現時点で被害の全貌は明らかでないことから、米兵に人的被害があるか、米国側が厳しい対応をとるか否か、によって今後の情勢は大きく左右されるだろう。

 本声明の中で特筆すべきは、イランが、米軍の中東地域からの撤退を、重要課題と認識する立場を公にした点である。イラクでは、1月5日、議会が駐留外国軍の撤退を求める決議を採択するなど、今後の米軍駐留の先行きは不透明な状況である。本決議は、米軍のイラク駐留終了を決定づけるものではない。しかし、もし将来的に米軍が撤退すれば、イラクに「力の真空」を生みかねず、イラク内政やテロ対策に影響を与えることが予想される。イランが、米国の中東地域からの撤退を目標の一つに掲げたことは、米・イラン間の対立の影響が中東全域に拡がり、また中・長期化する可能性を示唆している。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

・イラン

 「イラン:ソレイマーニー革命防衛隊ゴドス部隊司令官殺害とその波紋」No.165

・イラク

 「イラク:イランの革命防衛隊がアメリカ軍基地をミサイル攻撃」No.166

・湾岸・アラビア半島

 「湾岸・アラビア半島:革命防衛隊による報復攻撃とその余波」No.167

 

*1月20日の 国際情勢シンポジウム「「自由で開かれたインド太平洋」と中東―港湾開発、連結性、地域秩序への含意―」 では、最新の地域情勢も踏まえて、インド及びイラン人専門家とともに「自由で開かれたインド太平洋」における中東の役割、及び日本の位置づけについて議論する予定です。

(研究員 青木 健太)

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