中東かわら版

№163 サウジアラビア:カショギ氏殺害事件の幕引きを図る

 2019年12月23日、検察当局は、2018年10月のジャマール・カショギ氏殺害に関して、実行犯5人に死刑、隠蔽した3人に合計24年の禁固の判決が言い渡されたと発表した。いずれも氏名は伏せられ、刑の確定後に公表予定とのこと。なお本事件に計画性はないと判断されたため、西側諸国が指示・監督役として関与を指摘していたアフマド・アシーリー元情報副長官は起訴後に無罪、サウード・カフター二ー元王宮府顧問は不起訴となった。

 本発表に関して、国内メディアは一様に、公明正大な措置として評価している。サウジ人権委員会のアウワード・ビン・サーレフ会長他、弁護士、ジャーナリスト、宗教界等から、サウジ司法が健全に機能していること、政府の基本統治が反映されたものだとする評価が寄せられた。さらに9月にもメディアに取り上げられた息子サラーフ・カショギ氏(No.108『中東かわら版』)は本判決について、「待ち望んでいた措置。サウジ司法の信頼性を示すもの」とコメントした。その他、国外の声として、UAE、バハレーン、クウェイト、中国当局が同様にサウジ司法を評価していることが報じられた。

 

評価

 本判決に関して、西側メディア、またサウジと競合関係にあるトルコのメディアは、「(黒幕を無罪放免とする)判決は茶番」等と批判している。これを受けてサウジ側は、本判決を支持する諸外国(UAE、バハレーン、クウェイト、中国)をメディアを通じて連日紹介することで応戦してきた。かねてよりカショギ氏殺害をサウジ当局の陰謀と訴えてきた同氏の婚約者が本判決についてもイスタンブルから批判声明を出したが、これに対してもサウジ側は再び同氏の息子を「遺族代表」として担ぎ出した形だ。

 今般、興味深い動きとして、26日にイスラーム協力機構(OIC)のユースフ・ウサイミーン事務局長(サウジ人)が、本判決はサウジ司法に則ってなされたサウジの事案であり、OIC加盟各国は干渉を慎むよう述べたことが挙げられる。OICと言えば先立つ17日、サウジのサルマーン国王が、OICを基盤としてイスラーム諸国が意見や行動を統一することが重要だと発言した。この背景には、直後の19~21日にマレーシアでクアラルンプール・サミット2019が開催を控えていたことがある。同サミットは、事実上サウジの監督下にあるとされるOICとは別に、イスラーム諸国間の国際協力について協議すべく設立されたもので、サウジと競合ないし対立関係にあるイラン、トルコ、カタルのプレゼンスも目立つ。サウジとしては、OICを通じたイスラム諸国の統一を強めるために、カショギ氏殺害事件への見解統一を諸外国に求めると同時に、事件そのものの幕引きを図りたいところであろう。

(研究員 高尾 賢一郎)

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