中東かわら版

№161 アフガニスタン:大統領選挙が過去最低の投票率を記録

 2019年12月22日、独立選挙委員会(IEC)は9月28日に実施された大統領選挙の暫定結果を発表した。第1位得票者はアシュラフ・ガニー候補(現大統領。パシュトゥーン人)、第2位得票者はアブドッラー候補(現行政長官。タジク人、但し父親はパシュトゥーン人)である(詳細は図表1参照)。

 今後、独立選挙不服申立委員会(IECC)が、各候補から申し立てられた不服を裁定し、それを受けて最終結果が発表されることになる。憲法第61条に基づき、過半数を得る候補がいない場合、上位2者が決選投票に進む。なお、今次選挙における登録有権者数は966万5745人、有効投票数(暫定)は182万4401票(暫定投票率:約18.8%)であった。

 

図表1 2019年大統領選挙候補の得票順位(暫定)

候補者名

得票数(票)

得票率(%)

アシュラフ・ガニー

923,868

50.64

アブドッラー・アブドッラー

720,990

39.52

グルブッディン・ヘクマティヤール

70,242

3.85

ラフマトッラー・ナビール

33,921

1.86

ファルアムラズ・タマナー

18,066

0.99

サイード・ヌールッラー・ジャリーリー

15,526

0.85

アブドルラティーフ・ペドラーム

12,608

0.69

エナーヤトッラー・ハフィーズ

11,374

0.62

ムハンマド・ハキーム・トールサン

6,504

0.36

アフマド・ワリー・マスード

3,942

0.22

ムハンマド・シャハーブ・ハキーミー

3,324

0.18

ゴラーム・ファルーク・ナジラービー

1,606

0.09

ヌール・ラフマーン・リーワール

865

0.05

無効票

1,565

0.08

合計

1,824,401

100.00

(出所:IEC発表を元に筆者作成)

 

 同22日、IECCは、暫定結果に対し不服・苦情があれば、今後3日間以内に不服を申し立てるよう求めた。IECCは、不服を精査し今後37~39日以内に回答すると述べるとともに、今次結果はあくまでも暫定的である旨強調した。

 また、同22日、アブドッラー候補は自身のフェイスブックに、今次暫定結果は「広範囲に渡る組織的な不正」に基づくもので、約30万票に及ぶ不正疑惑票を無効にするべきとの要求をIECは無視したと糾弾し、必ず不正を正すと発表した。

評価

 今次選挙の暫定投票率は18.8%であり、アフガニスタン大統領選挙において過去最低の投票率を記録した(図表2参照)。この背景には、反政府武装勢力ターリバーンによる事前の脅迫・妨害、及びカタルで漸次進展する和平過程への期待の高まりもあるが、先の2014年大統領選挙を受けて国民に根深い政治不信が植え付けられた影響を無視することはできない。2014年選挙において、上位2者(ガニー、及びアブドッラー候補)は、挙国一致政府樹立を通じた権力分有によって幕引きを図り、最終選挙結果は有権者に公表されなかった。今後も各候補が利権の維持・拡大のみに終始し、国民軽視が続くようであれば、国民の政治離れは更に深刻化すると考えられる。今次選挙がどのような結末を迎えるのであれ、新政権はこれ程にも少ない国民参加による選挙を通じて選出されることになるため、その代表性・正統性に疑問符が付けられることは間違いない。

 

図表2 大統領選挙の投票数推移(2004年~2019年)

 

(出所:IEC発表を元に筆者作成)

 

 今後の見通しを左右する最大要素は、IECが、アブドッラー候補が不正票だと見做す約30万票を無効にするか否かである(『中東かわら版』No.148)。アブドッラー陣営からの要求に反し、今回無効化された票数は僅か1万8706票で、同陣営の要求はほとんど汲み取られなかったことがわかる。23日時点で、アブドッラー陣営はIECCに4,000件の不服を申し立てたことから見て、当面、IECCが定める不服申し立て手続きに則って物事を進めると考えられる。この過程でアブドッラー候補の不満が解消されなければ、暴力的な抗議行動が発生する恐れはある。但し、現状を見る限り、IECCは、数千件に及ぶ不服の裁定を通じて、少なくない票を無効にすることが予想される。このため、ガニー候補の最終得票数が過半数を割り込み、決選投票にもつれ込む事態も想定される。外部者は、今次発表はあくまでも暫定結果であるとの認識の下、ガニー候補に対し祝意を述べるなどの軽率な行為は控えるべきである。

 また、治安が悪い地域で異常に投票数が多い州がある点は不可解と言わざるを得ない。南東部ホースト州(人口約60万人。パシュトゥーン人多数地域でガニー候補の支持基盤)の治安は不安定だが、投票数が7万7866票(内、ガニー候補が7万5109票を獲得)で、人口150万人以上の都市バルフ州(7万2345票)、カンダハール州(6万8373票)等より多くの票が投じられた。こうした事実に鑑れば、アブドッラー候補は大規模な不正が結果を捻じ曲げており、IEC・IECCがその中心にいると認識していると思われる。このことから、外部者がアブドッラー候補に対し、選挙結果を受け入れるよう促す行為は内政干渉と受け止められる危険性があり、充分な留意を要する。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

・「アフガニスタン:大統領選挙前の動向」『中東かわら版』No.102

・「アフガニスタン:大統領選挙暫定結果を巡る抗議デモの発生」『中東かわら版』No.148

 

*2020年1月9日の中東特別講演会 山本 忠通・国際連合事務総長特別代表 兼 国連アフガニスタン支援ミッション代表アフガニスタン情勢の展開と国連において、アフガニスタンの現状、課題、および今後の展望について発表が行われる予定です。

(研究員 青木 健太)

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