中東かわら版

№160 アルジェリア:ガーイド・サーリフ副国防相兼参謀総長が死去

 2019年12月23日朝、アフマド・ガーイド・サーリフ副国防相兼参謀総長が心臓発作により死去した。79歳。ガーイド・サーリフは、ブーテフリカ大統領辞任後の実質的な最高権力者であった。現体制要人の総入れ替えを求める抗議デモが続く中で、大統領選挙の実施に向けて政治過程を率いてきた。

 死去に伴い、タブーン大統領はサイード・シェングリーハ少将(2018年9月~陸軍司令官)を暫定参謀総長に任命した。アルジェリアでは、陸軍司令官が参謀総長に任命されることが多い。

 

評価

 ガーイド・サーリフ副国防相兼参謀総長は、ブーテフリカ大統領を辞任させた後に政治的実権を握ったことから、今後、アルジェリア政治における権力構造に変化が生じる可能性がある。注目すべき事項として4点が挙げられよう。

 第一に、現体制の最高権力者であるガーイド・サーリフが去ったことで、抗議デモ参加者にとっては現体制要人の辞任を求める要求行動を行いやすい環境になる。今後、抗議デモが勢いづいた場合、治安部隊及び軍が弾圧するかどうかで今後の政治体制の性質が分かるだろう。武力を伴う弾圧が行われた場合は、軍が自らを中心とした体制を維持したいという意思の現れであり、弾圧がそれほど行われなければ、軍や政府はある程度の政治改革を受け入れるだろう。

 第二に、国防相ポストを誰が担うのかという点である。国防相を兼任していたブーテフリカが政界を去った後、同ポストは空席のままである。副国防相であったガーイド・サーリフが国防相に就任する可能性も取り沙汰されていたが、彼も死去した今、軍と政界の関係を調整する国防相ポストにどのような人物が就任するかは、やはり今後の政治体制の性質を見極める重要な材料である。

 第三は、最高権力者の死去により、タブーン大統領の権力が大きくなるかどうかである。大統領就任によりタブーンには組閣という任務があり、さらに前述の国防相問題がある。また、抗議デモの要求に応えることが新大統領の正統性の源泉にもなるため、タブーン大統領は憲法改正を公約に掲げている。こうした重要課題の遂行において、タブーン大統領が軍とどのように調整し、どのような政策を打ち出していくか注意深く観察する必要がある。

 最後に、ガーイド・サーリフが排除してきたブーテフリカに近い政治家や実業家が、影響力を回復するかどうかである。彼らの多くは逮捕され、既に公判中の者もいる。アルジェリア司法は政治に従属しているため、軍または政府の意向次第で彼らに対する判決が変わる可能性もある。

(研究員 金谷 美紗)

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