中東かわら版

№159 イラン:ロウハーニー大統領の訪日

 2019年12月20日~21日、ロウハーニー大統領が訪日した。イランの大統領としては、2000年のハータミー大統領以来19年ぶりで、ロウハーニー大統領の訪日は初めてである(安倍首相との会談は10回目)。日本政府外務省の発表によれば、20日18時からロウハーニー大統領は安倍首相と会談(約80分間)し、その後、拡大会合(約50分間)、夕食会(約50分間)で懇談した。安倍首相の発言の概要は以下の通りである。

 

  • 日本として、中東地域における緊張緩和、及び情勢の安定化に向けて粘り強い外交努力を継続する。
  • イラン核合意(JCPOA)の履行一部停止について深刻な懸念を有するとともに、JCPOAを損なう措置を控えるよう求めた。また、国際原子力機関(IAEA)との協力の重要性を強調した。
  • 日本の船舶の安全確保のため、自衛隊のアセットの活用に関する具体的な検討を進めている。(これに対し、ロウハーニー大統領は、イランはペルシャ湾の緊張緩和に向けた日本の外交努力を評価し、日本が透明性を持ってイランに本件を説明したことを評価した。)
  • イランにおける抗議デモで多数の死傷者が出たことを憂慮しており、最大限の自制を求めた。

 

 一方、国営通信『プレスTV』は、同日夜、イランに帰国したロウハーニー大統領は空港に集まった記者に対して概要以下の通り述べたと報じた。

 

  • 一つか二つの国を除いて、世界中の国々が(イランに対する)制裁に反対しており、こうした制裁が国際規約に違反していることは周知の通りである。(中略)日本、欧州、その他の国々は、制裁を打ち砕くべく活動しており、その為の提案及び問題解決の方法をともに相談しているところである。
  • 日本は、イランのホルムズ和平構想を支持している。(中略)日本は米国の安全保障構想には参加しないと宣言した。我々はこれらを支持した。

 

 21日夜、安倍首相はトランプ米大統領と電話会談(約75分間)し、ロウハーニー大統領訪日の成果について協議した。

評価

 今次訪問は、本年が日本・イラン外交関係樹立90周年に当たり、また今年6月に安倍首相がイランを訪問した状況の中、イラン側の要望により実現したものである。こうした状況下、重要な成果の一つは、日本側から自衛隊の中東派遣計画についてイラン側に説明し、了承を得た点である。米国はペルシャ湾岸における有志連合結成案を主導しているが(『中東かわら版』No.72参照)、同盟関係にある日本としては中東における船舶の安全確保の為の米国の構想に無関心であり続けることは難しい状況にあった。他方、9月25日、イランはホルムズ和平構想(『中東かわら版』No.101参照)を国連総会一般討論演説で提唱し、地域の安全は地域諸国が守るべきとの姿勢を打ち出し、外国軍による域内の安全保障連合結成は干渉だと断じた。イランと米国との狭間で、日本は難しい判断を迫られた。結果として、ホルムズ海峡には護衛艦を派遣せず、法制の制限により「調査・研究」を目的とするとの説明によりイラン側の了承を引き出したことで、日本はイラン・米国双方の顔を立てた。日本が、自衛隊の中東派遣の閣議決定を12月23日から27日に延期したことも、こうした事情を踏まえてのものだと考えられる。

 その一方、中東地域における緊張緩和に関しては、少なくとも表向きは、日本が従来の立場を繰り返すのみに留まった。2018年5月、米国はJCPOAから単独離脱し、「最大限の圧力」の名の下に厳しい経済制裁をイランに対してかけている。こうした中、イランとしては、核開発の大幅な制限を受け入れる代わりに、JCPOA当事国から当初約束された経済的な見返りを得るべく努力しているが、フランスが主導する石油収入を担保とする上限150億ドル(約1兆6000億円)の条件付き融資(『中東かわら版』No.88)も現在まで実現しておらず、全体として経済的に苦境に立たされている。11月15日にはガソリン価格引き上げを発端とする抗議デモが全国に広がり(『中東かわら版』No.139)、国民の不満がそろそろ限界に近づきつつある様子が窺える。これに鑑みれば、日本を含む緊張緩和の調停役は、米国に対して如何に有効に制裁解除、ひいては対話に向けた働きかけが出来るのかが重要である。今次訪問を経て、日本がイラン側の要求事項をどのように米国に伝達するのか、目標を何処に設定し、そしてまた如何なる梃子を使ってその目標を達成するのか、が今後の緊張緩和に向けたカギになるだろう。

(研究員 青木 健太)

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