№156 アルジェリア:大統領選挙でアブドゥルマジード・タブーンが勝利
2019年12月12日にアルジェリアで大統領選挙が行われ、国家選挙独立機構(ANIE)が13日に選挙結果を発表した。アブドゥルマジード・タブーン元首相が58.15%の得票で勝利し、次期大統領に決定した。選挙結果の詳細とタブーン新大統領の略歴は以下の通り。
(1)投票総数、得票率など
有権者登録数 (うち海外有権者登録数) |
24,474,161 (914,308) |
投票総数 |
8,504,346 |
無効票 |
1,243,458 (14.6%) |
未確定票 |
11,588 |
全体の投票率 (国内投票率) |
39.83% (41.13%) |
(出所)Algérie Presse Serviceより筆者作成。
(2)各候補者の得票
候補者名 |
得票率/得票数 |
略歴 |
アブドゥルマジード・タブーン |
58.15% 4,945,116 |
元首相(2017年5-8月);住宅・都市相(2012-2017) |
アブドゥルカーディル・ベングリーナ |
17.38% 1,477,735 |
国民建設運動党首;元観光相(1997-1999) |
アリー・ベンフリース |
10.55% 896,934 |
自由前衛党党首;元首相(2000-2003);元民族解放戦線(FLN)書記長;2004・2014年大統領選挙立候補 |
イッズッディーン・ミーフービー |
7.26% 617,753 |
民主国民連合(RND)暫定党首;元文化相(2015-2019) |
アブドゥルアジーズ・ベルイード |
6.66% 566,808 |
未来戦線党党首;元FLN中央委員会委員;2014年大統領選挙立候補 |
(出所)Algérie Presse Serviceより筆者作成。
(3)タブーン新大統領の略歴
・1945年11月17日生まれ
・アドラール県知事、ティアレット県知事、ティージー・ウズ県知事を歴任
・大臣経験
1991-1992年 内務・地方行政大臣付き国務大臣
1999-2000年 通信・文化大臣
1999年、2001-2002年、2012-2017年5月 住宅・都市計画大臣
2017年5-8月 首相
評価
5名の候補者はいずれも、独立以来続く軍の強い政治介入を前提とする現体制のなかで政治活動を行ってきた人物であるため、どの候補者が勝利しても体制の根本的改革に着手しないと予想されていた。当選したアブドゥルマジード・タブーンは、ブーテフリカ大統領時代にサラール内閣で住宅・都市計画大臣を、2017年には3カ月間のみ首相を務めた人物である。首相を解任された理由は、ブーテフリカ大統領の側近であった経済界トップのアリー・ハッダード氏(現在汚職問題で公判中)との対立であった。そのため、ブーテフリカ元大統領の側近の排除を進める軍にとって、候補者5名のなかでは最も都合の良い候補者であったのかもしれない。
ブーテフリカ辞任後の政治過程を支配する軍は、選挙によって国民の信を得た正統性のある新大統領を生み出し、軍の正統性をも維持しようと考えている。しかし今回の軍主導の大統領選挙が国民の支持を得て行われたとは言い難い。反政府抗議デモは、規模は縮小したとはいえ、非民主的な体制を継続させるだけの大統領選挙に反対を唱えつづけた。公式発表の投票率は41.13%、国内は39.83%で、複数政党制に基づく大統領選挙が行われてから最も低い。また、無効票14.6%という高い数字は、国民が大統領選挙に不満を持っていることの現れの一つであろう。
タブーン新大統領は、2月22日から始まった反政府抗議運動(ヒラーク)の要求に応じるため、大統領権限の縮小、議会権限の拡大、権力分有、権力の監視制度の整備など広範な憲法改正を進めると述べた。市民生活の改善に向けては、市民への住宅供給、医療制度や社会保障制度の整備を進めるとしている。まずは、憲法改正の議論がどの程度「広範」になるのか、タブーン大統領が軍とどのように政策を調整していくのかを見ることで、新政権の性格が見えてくるだろう。
【参考情報】
*関連情報として、下記『中東かわら版』もご参照ください。
(研究員 金谷 美紗)
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