中東かわら版

№155 レバノン:抗議行動が原因で歳入が激減

 2019年12月16日、レバノン国会のカナアーン予算委員長は、抗議行動が勃発した10月半ば以降の2カ月間で公的な歳入が40億ドル減少したと述べた。同委員長は、2020年度の予算編成のための委員会審議を終了させなくてはならないと述べる一方、現在の経済情勢に対処するための例外的な措置が必要だと指摘した。

 レバノンの経済・財政状況は、公的債務が150億ドル(GDP比で約150%)と推定される深刻な状況にある。この間、レバノン・ポンドは長年1ドル=1500レバノン・ポンドで取引されてきたが、2019年12月12日付『エコノミスト』によると、今や1ドル=2000レバノン・ポンドにまで暴落している。

 

評価

 レバノンの政治・経済・財政状況は、抗議行動の継続・激化とともに深刻さを増している。12月11日には、フランスにてレバノン支援国による国際会合が開催されたが、この会合でもレバノンに対し早期の新内閣編成と必要な改革措置の実践を促されるにとどまり、現時点で大規模な資金援助のようなレバノン救済策がとられるわけではない。

 レバノンの経済・財政状況の悪化は、レバノン内戦(1975年~1991年)、イスラエルによるレバノン攻撃(2006年)、シリア紛争(2011年~)の影響を受けたものではある。しかし、その根本的原因は、「宗派体制」と呼ばれる宗派ごとに政治的役職と権益を配分する体制の下で、全会一致による意思決定を重んじるあまり既得権益を侵す政治・経済改革ができなかったこと、「宗派体制」の下で政治家と有権者との関係が「利益誘導とそれに対する対価・忠誠の表明としての投票」という関係に陥り、国家と国民とがいかなる義務を履行し、どのような権利を享受するかについての意識が薄弱なことであろう。

 今般の抗議行動は、「宗派体制」を超克した運動として規制の政治エリートの退陣を要求するレバノン全体の運動とみられている。その一方で、抗議行動の側からは既存政治家を一掃したとしても、その後レバノン国民自身が相応の負担と自律を求められる政治・行政・財政改革をどのように担うのかの展望が示されていない。抗議行動を受けてハリーリー首相が辞任を表明した後、後任の選出も懸案の2020年度予算の審議も全く進んでおらず、レバノンは迷走状態にある。反政府抗議運動は、既存の政治家の一掃や行政サービス・生活水準の向上を要求するだけで済む段階を超え、自らがいかにしてレバノンの政治や社会を担うのかを示す段階に入っているといえよう。

(主席研究員 髙岡 豊)

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