中東かわら版

№151 アフガニスタン:邦人の被害を含む治安事案の発生#2

 2019年12月4日、東部ナンガルハール州のホーグヤーニー報道官は、NGOペシャワール会の中村哲医師が死亡したと確認した。同日朝、同医師は車両で移動中、正体不明の武装勢力に襲撃されていた。

 同日、ターリバーン(イスラーム首長国)のムジャーヒド報道官は、「ジャララバード市におけるNGO・PMS(ペシャワール会のこと)現地代表の日本人への攻撃は、イスラーム首長国のムジャーヒデゥーンと何の関係もない」とした上で、「復興分野で活動するNGOはイスラーム首長国と良好な関係を持っており、それらはムジャーヒデゥーンにとって軍事目標ではない」とツイートした。

評価

 本事案は、2001年以降のアフガニスタンにおける邦人援助関係者の被害としては、2008年に発生した伊藤和也氏(中村医師と同じくペシャワール会所属)拉致殺害事件に次いで2件目である。命に別状はないとの報道も見られたが、現地当局の発表によると、銃撃によって結果として死亡するに至った。

 現時点で、実行主体は依然として不明である。ターリバーンについては、本年4月に春季攻勢「ジハード・ファトフ攻勢」の開始を宣言しているが、その中で攻撃方法と対象はほとんど言及していなかった。近年、ターリバーンは、アフガニスタン人民の福祉に資する開発事業を実施する援助機関を、その攻撃対象に明示しない傾向がある。(イスラーム過激派モニター『ターリバーンが2019年の攻撃開始を宣言』2019年1号【会員限定】参照)。これは、ターリバーンが、政治的・軍事的勝利を視野に入れる中、人民からの支持がなければ統治は困難であることを認識しているためだと考えられる。実際、アフガニスタンの国土の多くは不毛な土獏であり、村落民の庇護・支援がなければ、ターリバーンが活動を継続することはほぼ不可能である。

 今後、ターリバーン以外の武装勢力による犯行の可能性、開発事業実施を巡る怨恨の有無、その他の可能性等々について、治安当局による捜査が続くだろう。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

・「アフガニスタン:大統領選挙前の動向」『中東かわら版』No.102

・「アフガニスタン:トランプ米大統領がターリバーンから交渉の主導権を奪取」『中東かわら版』No.147

・「アフガニスタン:大統領選挙暫定結果を巡る抗議デモの発生」『中東かわら版』No.148

・「アフガニスタン:邦人の被害を含む治安事案の発生」『中東かわら版』No.150

<イスラーム過激派モニター>【会員限定】

・『ターリバーンが2019年の攻撃開始を宣言』2019年1号

 

*12月11日の中東を知るセミナー「アフガニスタン政治の推移、特徴、展望~迷走する2019年大統領選挙と和平プロセス~」(研究員 青木健太)において、最近のアフガニスタン情勢について発表が行われる予定です。

(研究員 青木 健太)

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