中東かわら版

№146 トルコ:エルドアン大統領のカタル訪問

 

 2019年11月25日、エルドアン大統領は、第5回高等戦略委員会に出席するためカタルのドーハを訪問した。到着後エルドアン大統領はタミーム首長と会談し、トルコ-カタル関係、中東地域および国際問題について意見を交わした。その後、両首脳を議長とした代表団による交渉が行われ、経済、都市化、貿易、産業、技術、秩序維持分野等を中心に、二国間関係促進のための7項目に関する合意文書に署名した。トルコからは、ウイサル・トルコ中央銀行(TCMB)総裁、クルム環境都市整備相、ワランク産業技術相、カサプオール青年・スポーツ相、アルバイラク国庫・財務相、ペクジャン貿易相、カルン報道官、フィダン国家情報機構(MIT)長官ら主要閣僚が出席した。

 タミーム首長は終了後、「今次会談の冒頭から、戦略的観点における二国間関係をさらに強化するという共通のビジョンを再確認した。両国の関係は目標に向かって順調に進んでいる」とツイッターに投稿した。

 また、同日エルドアン大統領は、トルコ-カタル統合合同司令部を訪問し、トルコ軍兵士を前にスピーチした。その中で、同司令部が両国関係の縮図であり、軍事・安全保障・防衛産業分野での共同プロジェクトが二国間関係の骨子となっていると述べた。また、湾岸地域の平和が中東安定の鍵であるとした上で、トルコ軍はカタル軍と協力することによってこれに貢献していると述べた。

  

評価

 

 今般のエルドアン大統領のカタル訪問では、トルコ・カタルの二国間関係の更なる強化、特に双方にとっての重要課題である経済と安全保障分野を強化する意味合いが強かったものと考えられる。

 トルコとカタルは、近年良好な関係を築いている。特に2017年6月のサウジ、UAEを中心とする湾岸アラビア半島4カ国が突き付けたカタル断交以来、その関係を深めてきた。この時トルコは、サウジ・UAEによって流通を遮断された食料品等の生活物資の支援を行ってカタルの窮地を救った。加えて、就労ビザ、永住権付与、財産所有権付与等でビジネス環境を整えているカタル側の積極的な誘致もあり、同国へ進出するトルコ企業が増加したことで経済的な結びつきが強められている。

 他方、トルコに対してカタル側からも支援体制がとられている。2018年8月、米国との関係悪化によって通貨が暴落してトルコが窮地に追い込まれた際は、中東各国が事態を静観する中、いち早く経済支援に乗り出している。また、両国の中央銀行総裁は2018年8月にスワップ取引に関する契約の修正で合意し、トルコリラ、カタルリヤルそれぞれを50億ドルで調達するという文書に署名するなど、経済関係は更に強固になっている印象だ。2019年10月にトルコがシリア北部に進攻して国際社会の批判を浴びた際も、カタルのアティーヤ国防相が「テロリストから身を守るためのトルコの試みは犯罪ではなかった。」と発言するなど、欧米の批判を恐れずトルコを擁護する姿勢をみせている。

 両国は安全保障面についても、2016年から防衛相互協力条約を結び、関係を強化してきた。同条約の批准により、カタルは国内の軍事基地をトルコに提供し、トルコ・カタル間で共同訓練などを実施している。2019年に入りトルコは駐屯地を新たに建設し、その規模を拡大させている(詳細は、『(会員限定)中東トピックス』No.T19-05 参照)。なお、トルコの基地設置がサウジにとっての脅威となったことも、カタル断交の要因の一つとなっている。

 断交による経済的なリスクを負っているカタルにとって、強大な市場を持つトルコには、直接投資も含め期待する面が大きい。一方のトルコにとっても、エルドアン大統領の言動やシリア北部での軍事作戦等による国際社会からの非難がトルコリラ下落のリスク要因となっている。アル=ジャジーラという巨大メディアを擁し、LNGガスの供給元であるカタルと友好関係を築いておくことは、トルコにとっても重要な意味を持っている。今般の合意は中長期的な意味においても双方にとって有益なものとなるだろう。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

・トルコリラ続落

『中東かわら版』2018, No.45, 48

 ・カタル断交問題

『中東かわら版』2017, No.45, 47, 51, 60

 

(研究員 金子 真夕)

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