中東かわら版

№147 アフガニスタン:トランプ米大統領がターリバーンから交渉の主導権を奪取

 2019年11月28日の現地時間午後8時30分頃、トランプ米大統領はアフガニスタンを電撃訪問した。今回の訪問は感謝祭に合わせて行われ、トランプ大統領はバグラム空軍基地で駐留米軍兵士を激励するとともに、ガニー大統領と会談した。

 29日付ガニー大統領のツイートの概要は以下の通りである。

 

  • 会談において、アフガニスタン東部における「イスラーム国」の撃滅を含む、両国による共同軍事作戦における主な進捗について話し合った。
  • もしターリバーンが和平合意に対して真摯な姿勢を見せるのであれば、一時停戦合意を受け入れなければならない。また、恒久的な平和を築くには、アフガニスタン国外にあるテロリストの安息地の消失が必要であると強調した。

 

 また、28日付『ニューヨークタイムズ』によれば、トランプ大統領は同会談で、「ターリバーンは合意を希望しており、我々(米国)は彼らと協議中だ」と発言した。また、トランプ大統領は「現在、彼ら(ターリバーン)は一時停戦合意を求めている。おそらく、その方向で進むだろう」と述べた。

 なお、トランプ大統領のアフガニスタン訪問は、就任後初めてである。

評価

 米国・ターリバーン間の当初合意案は一時停戦合意を含むものではなく、締結後に治安悪化を招く危険性が高かった(『中東かわら版』No.89参照)。このため、本年9月7日、トランプ大統領は協議の一時中断を宣言した。これは、トランプ大統領が、米軍撤退の代わりに、ターリバーンが自らの支配領域を国際テロ組織に使用させないだけでは、内容が不充分だと判断したためと考えられる。今回、トランプ大統領がさらに一歩踏み込み、一時停戦合意を要求事項に追加したことからは、ターリバーンから交渉の主導権を奪い返そうとする姿勢が窺える。もし米国・ターリバーン間で公式の協議が再開すれば、暴力の低減を伴う実質的な和平の実現に向けた話し合いが期待できる状況となった。

 他方、トランプ大統領はターリバーンとの非公式の接触を認めたとはいえ、ターリバーンが暴力を放棄するかどうかは不透明である。同勢力は、軍事攻勢は政治的目的を達成するための重要な道具だと認識していると考えられ、交渉過程でこれを放棄することは命取りになりかねない。今後、ターリバーン指導部から和平過程に対してどのような立場が示されるのかは一つの焦点となる。また、ターリバーンが抵抗運動を継続することができる背景には、パキスタン軍既存体制が同勢力へ資金・武器・人員などの資源を背後から提供・支援している、とアフガニスタン政府は非難している。仮にこれが事実であれば、後援者の姿勢が変更されなければ和平への道程は暗いと言わざるを得ないことから、その動向をよく観察することが重要だ。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

・「アフガニスタン:ハリールザード米国和解担当特別代表のインタビュー放送」『中東かわら版』No.89

 

*12月11日の中東を知るセミナー「アフガニスタン政治の推移、特徴、展望~迷走する2019年大統領選挙と和平プロセス~」(研究員 青木健太)において、最近のアフガニスタン情勢について発表が行われる予定です。

(研究員 青木 健太)

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