中東かわら版

№144 エジプト:シーシー大統領息子を総合諜報局副長官から解任か

 エジプトのネットメディア『マダ・マスル』は、11月20日付の記事において、総合諜報局(GIS)の匿名筋などからの情報に基づき、シーシー大統領の長男でGIS副長官のマフムード・シーシーが同職を解任される見通しであると報じた。今後、マフムードは軍諜報偵察局に異動となり、2020年にモスクワのエジプト大使館付き武官に任命されるという。

 GISとは大統領府直属の諜報機関で、3つある治安機関(GIS、軍諜報偵察局、内務省の国家治安局)のうち、現在は最も大統領の意思決定に影響力のある組織である。伝統的に外交政策決定に深く関与し、外務省よりもその影響力は大きい。これに加えてシーシー政権下では、GISが主要国内メディアの株主になることでメディア監視を行うようになり、マフムードはその役割を担っていたという。

 GIS高官やUAE政府高官の匿名筋によると、解任の理由は、マフムードの仕事ぶりがシーシー大統領の印象悪化、ひいては政権の不安定化に繋がりうると判断したことである。具体的には、最近、国内外のメディアが「シーシー大統領の長男のマフムード」について頻繁に報じるようになり、大統領の印象が損なわれたと判断したようである。また、9月に、実業家ムハンマド・アリー氏による大統領批判を引き金に反政府抗議デモが起きたが(『中東かわら版』No.99)、その際にデモ鎮圧を担当したのがマフムードであった。同事件では数千人が逮捕され、特に海外メディアが批判的に報じた。さらに、GIS内部にマフムードの独断的な態度に不満をもつ人々が増えているという。

 同記事によると、大統領の家族や大統領側近(カーミルGIS長官、アブドゥルナビー大統領府大統領室長など)が話し合いの末に大統領に提言し、大統領がこれを受け入れた。

 

評価

 上記からは、マフムードのGIS副長官解任が、体制の不安定化要因を取り除く目的で行われたことがわかる。不安定化要因の一つは、国内外におけるマフムードの評判とそれに関連付けられるシーシー大統領の評判、もう一つは、GIS内部のマフムード及びシーシー大統領に対する不満である。後者は、GISが体制の権力基盤の一つである意味で極めて重要である。大統領の息子であるマフムードを更迭することで、GIS内部にいる大統領に批判的な勢力の不満を軽減できるためである。

 また、更迭は、おそらく9月の反政府抗議デモが直接の原因になったと考えられる。シーシー政権下であのような直接的な政府批判が行われた事件は初めてであり、逮捕者の多さは海外メディアで大きく報じられ、政権の安定運営という意味では大きな打撃であった。抗議デモの引き金となった大統領批判は、ムハンマド・アリー氏以外に軍や諜報機関の匿名関係者によっても行われたため、治安機構の人事変更を通じて体制の権力基盤に引き締めを図ることは予測されていた(『中東かわら版』No.99)。というのも、シーシー大統領は以前から、軍や諜報機関における大統領に批判的な勢力を要職から外すことで体制の安定化を図ってきたからである。ハーリド・ファウジー前GIS長官の解任、マフムード・ヒガージー前軍参謀総長の解任がその一例であり、マフムードの解任も同じ論理で決定された。

 シーシー政権において、徹底的に弱体化させられた政党や政治運動は体制に対する大きな脅威ではない。体制の安定化は、権力基盤内部(軍・諜報機関)をシーシー大統領がいかにコントロールできるかにかかっている。その意味で、今後も軍・諜報機関の人事を観察することにより、シーシー大統領の権力基盤の強さや政権の安定度を判断できるだろう。

(研究員 金谷 美紗)

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