中東かわら版

№143 イラン:ガソリン価格値上げを受けた抗議活動の発生#2

 イランにおけるガソリン価格値上げを受けた抗議活動は、当局によるインターネット遮断の影響で実態の把握は困難であるが、SNS等による情報発信を確認する限り少なくとも20日まで継続した模様である。

 こうした中、2019年11月19日、人権団体アムネスティー・インターナショナルは「信頼できる報告」に基づくと、治安当局は抗議活動参加者に対して実弾、催涙弾等を使用しており、少なくとも21都市で106人が死亡したと発表した。その発生地点及び、死者数の内訳は以下の通り。

 

地図 抗議活動参加者の死亡事案発生地点と人数内訳

(出所:アムネスティー・インターナショナル報告を基に筆者作成)

 

 11月18日、ラビエイー政府報道官は、低所得層の国民2千万人に対する現金補助金の給付を開始したと発表した。全体の支給対象数は6千万人で、残りの4千万人も今週中に受給するだろうと述べた。同報道官によれば、受給者は各家庭の世帯人数に応じて毎月20万5000~55万リヤール(実勢レートで約180~482円)を指定の銀行口座から受け取ることになる。

 

評価

 15日からイラン全土で発生した抗議活動は、治安当局による実弾の使用を含む暴力を通じた弾圧と、それに対する抗議活動参加者の応酬により、イラン国内では近年類を見ない程の死傷者数を出すに至った。抗議活動が始まった直後から情報統制が敷かれたこともあり、抗議活動の連携・組織化は阻まれた。また、18日、イスラーム革命防衛隊が暴徒に対しては「決定的」な対応をとると明言した通り、武力面で非対称な市民らは鎮圧されつつある。

 今次抗議活動がここまで国民の反発を招いた背景には、イラン政府による説明不足が挙げられる。イラン政府は、当初から、ガソリン価格への補助金を削減し、削減分を低所得者層約1800万世帯、6千万人に現金支給する計画だったと見られる。2018年3月の国際通貨基金(IMF)報告書は、イラン政府が補助金改革、特に燃料への補助金を2020~2021年までに撤廃し、貧困層への効果的な現金支給計画の実施を推奨していた。米国による経済制裁が科され、国民生活が苦しい状況下で、何の説明もなくガソリン価格の値上げに踏み切ったことは政府側の準備不足だと糾弾されても仕方がない。他方、今次事案は、新しい財源を確保しなければ新しい政策を実施できなかったことも示唆しており、イラン政府の予算が相当逼迫している可能性もある。

 なお、抗議活動が終わったとしても、今回の暴力を通じた弾圧は国民の記憶に刻まれたと考えられることから、将来に大きな禍根を残したと言える。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

・「イラン:ガソリン価格値上げを受けた抗議活動の発生」『中東かわら版』No.139

(研究員 青木 健太)

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