中東かわら版

№141 サウジアラビア:サウジアラムコのIPOをめぐる評価

 2019年11月、国営石油会社サウジアラムコが以前から計画していたIPO(新規株式公開)に踏み切った。主な動きは以下の通り。

 

11月3日:国内の証券取引所「タダーウル」でのIPOを、同取引所を監督する資本市場庁(CMA)が承認したと発表。

11月9日: IPOの目論見書を発表。

11月17日:目標株価30~32サウジ・リヤル(1リヤル≒28.9円)、売却株数は総株数の約1.5%とすること等を発表。

今後の予定:12月5日に売出株価を確定、2020年に海外市場でのIPO(売却株数は国内分と合わせて5%)。

 

評価

 アラムコのIPOについては、今年9月の石油施設攻撃で石油産出量が減少したこと等から(『中東かわら版』No.93, 94)、今年中の実施を懸念する声が根強かった。これに対してアラムコ側は強気な姿勢を維持し、予告していた11月にIPOを開始した。アラムコのIPOは国家改革計画「サウジ・ビジョン2030」における中心的なプロジェクトの1つで、サウジ側はこれをサウジ及び世界経済にとっての歴史的一歩と評し、ビジョンの主導者であるムハンマド皇太子のリーダーシップを称えた。

 一方、地域情勢を考慮したリスクや、当初計画の規模が大きすぎる点等から、海外の投資金融機関の関心は当初予想ほどは高いものとならなかったようである。このためアラムコは、予定していた米国・カナダ・オーストラリア・日本を対象とした海外上場を延期し、国内及び湾岸諸国を対象とした上場から着手して、資金調達に取り組むこととなった。

 こうした背景から、上場後、アラムコの企業価値は、ムハンマド皇太子が2016年に述べた2兆ドルを下回る、1.7兆ドル以下とされた。これに関連して、11月19日、アラムコからIPOアドバイザーである投資金融機関25社に支払われる手数料が9,000万ドル以下との見通しが『ロイター』で報じられた。同金額は、当初予想されていた2億ドルを下回り、やはりアラムコのIPOが当初計画よりも小規模な形で開始した様子がうかがえる。

 以上のアラムコによる計画変更に対して、海外投資家からの失望といった観点で報じる向きも見られる。しかし、9月に石油生産量が大幅に減少したと報じられた背景を踏まえれば、二段階上場の選択を含め、むしろ現実路線に基づいた取り組みを進めていると評価できる。

(研究員 高尾 賢一郎)

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