中東かわら版

№140 イスラエル・パレスチナ:アメリカがイスラエルの入植地への立場を転換

2019年11月18日、ポンペオ米国務長官は、西岸地区の入植地建設について以下の旨発表し、イスラエルの西岸地区での入植活動を事実上認めた。

  • イスラエルの民間人が入植地を西岸地区に作ることを、いまや、国際法違反とはみなさない。
  • アメリカは、1978年の米国務省の法的見解「占領地にある民間人の入植地は国際法に反する」を撤回する。
  • アメリカ政府は、入植地建設に関するあらゆる法的問題はイスラエルの司法が判断すべきだと信じている。
  • 紛争を法的に解決できないというのが厳しい現実だ。誰が正しく、誰が間違っているかを国際法の問題として議論しても平和はもたらされない。

 

 イスラエルのネタニヤフ首相は、今回のアメリカの発表を歓迎し、他国にも同じような立場を取るよう呼び掛けた。他方、パレスチナ、欧州、ヨルダンなどは今次発表を非難し、入植地建設は国際法違法だと主張した。


評価

 1978年の法的見解は、当時のカーター政権が、1967年の第3次中東戦争でイスラエルが占領した西岸地区、ガザ地区、ゴラン高原、シナイ半島での民間人による入植地建設を国際法上の違法とみなす根拠となったものである。今回のアメリカ政府発表は、西岸地区の入植地におけるイスラエルの司法権を認めるものでもあり、同国の入植地拡大を促す効果があるだろう。

 さらに、11月12日には欧州司法裁判所が、西岸地区のイスラエルの入植地で生産された製品へのラベル付けを、欧州諸国に義務付けることを決定している。今回の発表で民間人による入植地建設が強調されたことに注目すれば、今回の発表には、こうしたEU側の政策に対しイスラエルを擁護する目的もあるだろう。

 イスラエルによる占領地での入植地建設は、国際法違反とみなされるが、同国政府はこれまで、国内法の枠組みの下で占領地の入植地を合法・非合法で線引きしつつ西岸地区で入植地を建設してきた。また、農業に適した水源の豊かな土地を入植したり、パレスチナ自治政府が管轄する地域を取り囲み、個々の地域を分裂させるような形で入植地は拡大してきた。軍がパレスチナ人私有地を接収し建設する入植地が合法、イスラエルの民間人の入植者が、政府の許可なくパレスチナ人私有地に侵入し建設した入植地が非合法である(イスラエルによる最近の入植活動は『中東かわら版2016年No.168 イスラエル:西岸の不法入植地をめぐる動き(3)』などを参照ください)。

 他方、ポンペオ長官が和平に言及したことを踏まえれば、今次の入植地建設の承認が、アメリカが作成中とされる中東和平案の一環であることも示唆される。しかし、イスラエルでは史上初のやりなおし選挙が実施されたにもかかわらず、いまだ組閣されていない。対するパレスチナ側では、ファタハとハマースとの対立は解消されず、アッバース大統領が公約する大統領選挙、議会選挙を実施する見通しさえ立っていない。このように和平プロセスを担うべき当事者が不在の状況では、今回のアメリカの発表はイスラエル・パレスチナ間の和平を後押しするどころか、イスラエル側に有利な既成事実を積み重ねる結果を生んでしまうだろう。

(研究員 西舘 康平)

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