№136 トルコ:エルドアン大統領の訪米
2019年11月13日、エルドアン大統領は米国を訪問し、トランプ大統領との首脳会談を行った。同訪問はトランプ大統領の招待に応じたもので、首脳会談のほか、共和党の上院議員との意見交換も含む異例の形式となった。
終了後の共同記者会見でのエルドアン大統領の発言概要は以下の通り。
【シリア紛争について】
- 10月13日、テルアブヤドで(人民防衛隊(YPG)の攻撃とみられる)爆発によって13人の民間人が犠牲となったが、トルコはシリアの危機に対する永続的な解決策を見つけるため、米国との合意を守り続けている。
- 軍事作戦によって安定したジャラーブルスに365,000人のシリア人が帰還した。
- トルコと米国が協力すれば、シリアに平和と安定をもたらし、「イスラーム国」を完全に終わらせることができる。
【クルド問題について】
- クルディスタン労働者党(PKK)は、トルコのみならず米国、欧州連合(EU)からもテロ組織として指定されている組織である。
- 「クルド人が問題」なのではない。トルコが問題にしているのはテロ組織である。イラクのクルド人との関係が良好であるのと同様、シリア北部のクルド人との関係には何の問題もない。
- YPGのリーダー、フェルハット・アブディ・シャーヒン(または、マズロウム・コバネ)が米国で重要視されていることは「残念」だ。
- シャーヒンは、(トルコで投獄されている)PKKのリーダー、オジャランの息子のような人物で、数百人のトルコ人を殺した「テロリスト」であり、トルコは、YPGがPKKのシリア支部だと考えている。
【トルコ・米国関係について】
- テロ組織に同情する一部の人たちが、テロと対峙するトルコに不快感を抱き、トルコと米国の関係を混乱させようとしている。
- 10月29日に米下院議会が(オスマン帝国時代にトルコで発生した)「アルメニア人虐殺」事件をジェノサイド(民族浄化)と認定したことにトルコ国民は傷ついた。
- S-400とF35の問題は、二国間で対話によって克服するしかない。
評価
今般の首脳会談では、ロシア製のミサイル防衛システムS-400を米国の求めに応じてトルコが廃棄するか、トルコが開発段階から携わってきたF-35戦闘機の引き渡しに米国が応じるか、または、双方が納得できる着地点を見出せるのか、について国際社会の注目が集まっていた。だが、これまでと同様、二国間が引き続き協議するという問題の先送りで決着した。これにより、懸念されていた米国による経済制裁の発動が延期されることにもなり、これ以上トルコリラの下落を避けたいトルコにとっては、成果があったと言えるだろう。
今次会談は、首脳同士のみならず、共和党の上院議員やトルコ側の閣僚らを入れ、両国首脳が議長を務める意見交換も行われた。これは、米国議会で「アルメニア人虐殺」をジェノサイドと認定する法案が可決されたこと、先般のトルコの軍事攻撃に抗議して経済制裁を求める法案を準備する超党派のグループの存在などを考慮し、双方の隔たりを埋めるために代表団による対話形式が採られたと考えられる。
しかし、今般の会談によって米国内でのトルコに対する不信感が完全に払拭されたわけではない。未だに、民主党のみならず共和党内にも反トルコ派の議員は多い。その原因となっているのがS-400 とF-35の問題である。トルコは、米国からのミサイル購入や、S-400がNATOの防衛システムに抵触しないようなプログラムを作ることが可能と主張しているが、先行きは不透明である。今般の会談でも結論が先送りにされたことで、緊張は緩和したものの、解決には至らなかった。
だが、本問題のそもそもの根本原因は、オバマ政権時代に米国がYPG支援に踏み切ったことにある。シリア紛争にかかる問題とS-400/F-35は、トルコにとって切り離すことのできないものであり、これらが先延ばしにされたままでは、両国の隔たりを埋めることは困難だろう。
【参考情報】
*関連情報として、下記レポートもご参照ください。
<中東かわら版>
・「トルコ:シリア北部での対クルド軍事作戦開始を宣言」『中東かわら版』No.112
・「トルコ:シリア北部の軍事作戦に関しロシアと合意」『中東かわら版』No.123
(研究員 金子 真夕)
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