中東かわら版

№135 イスラエル・ヨルダン:租借地の利用期限が切れる

 2019年11月10日、イスラエルが25年に亘りヨルダンから租借していた二つの土地(バーク―ラ、グマル)の利用期間が終了した。両国は1994年に平和条約を交わしており、その附属書では、両地をヨルダンの主権下に置きつつも、25年間イスラエルが租借し、イスラエル側の法律を適用することに加え、イスラエル人の用益権や移動・活動の自由、武装したイスラエル人警官の出入りなどが定められた。

 利用期限が切れた背景には、2018年10月21日、ヨルダンのアブドッラー2世国王が両地の租借期間を更新しないと発表したことがある(詳細は「中東トピックス2018年10月号」を参照ください)。附属書では、要請がない限り租借期間は自動更新されるが、期限が満了する1年以内に、いずれかが附属書の無効を要請した場合には協議を行うことが定められている。これらの条項に従い、イスラエル政府は期限延長のための協議を幾度か要請してきたが、ヨルダン政府は応じてこなかった。

 2019年11月11日付『シャルク・アウサト』紙(サウジ資本の汎アラブ紙)にヨルダン外務省筋が述べたところでは、両地には今後ヨルダンの法律が適用され、事前に入国ビザを取得する必要があるものの、イスラエル人による農業は今後も許可され、イスラエル人の土地所有も一部認められる見通しである。附属書の期限が切れる前に植えられた作物の収穫も可能だという。

評価

 バーク―ラとグマルはもともとヨルダン領だったが、イスラエルはバーク―ラを1950年に、グマルを1967年の第3次中東戦争から1970年の間にかけて占領した後、国際的な承認を得ないまま入植活動を続けてきた。そのため、ヨルダンにとって今次の出来事は、両地の主権を実質的に回復したという点で象徴的な意味がある。事実、10日にアブドッラー2世国王は議会において両地に対する完全な主権の回復を発表し、翌日には軍人を随行させてバーク―ラを訪問した折、同地の軍事面・戦略面に関するブリーフィングを受けたとアピールしている。ヨルダンでは行政・経済改革に反対する大規模な抗議活動がしばしば発生しており、その都度、関係閣僚を更迭するなどの対応をしてきた経緯がある。こうした国内状況に鑑みれば、今回の出来事は国民に不人気なイスラエルとの関係を一部修正し、国民の一体感を高める効果もあるだろう。

 他方、今回のヨルダン側の行動は、従来、イスラエルがエルサレムにおいてパレスチナ人を拘束、殺害したり、入植者や超正統派等のイスラエル人による礼拝の強行を黙認していることに加え、2018年5月に米国が大使館をエルサレムに移転して以降、ネタニヤフ首相が選挙キャンペーンの一環で西岸地区の入植地併合を発言する等し、和平プロセスが停滞していることへの反発との見方もある。ただし、11日にヨルダンのサファディー外務・移民相が、イスラエルとの平和条約そのものは維持すると発表したように、ヨルダン・イスラエル関係が今後劇的に悪化することは想定しにくい。これは、ヨルダン側の決定にイスラエルが応じたことにも表れている。同国のネタニヤフ首相はヨルダンの決定に関して真の和解はないと述べるに留めており、同国外務省からも強い口調の声明は出ていない。こうしたイスラエル側の反応も加味すれば、今後も、今回のように両国関係の細かな部分で何らかの綻びが生じる可能性はあるだろうが、両国関係が急速に悪化することはないように思われる。

(研究員 西舘 康平)

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