中東かわら版

№129 サウジアラビア・UAE:イエメン紛争の仲介と停戦協定「リヤド合意」

 2019年11月5日、リヤドで、イエメンで武装対立する同国の暫定政権と、分離独立を掲げる南部移行評議会が、停戦協定「リヤド合意」に調印した。調印式には、仲介役を務めたサウジのムハンマド・ビン・サルマーン皇太子、UAEのムハンマド・ビン・ザーイド・アブダビ皇太子が見守る中、イエメンからハーディー暫定大統領とズバイディー南部移行評議会議長が参加した。今後、南部移行評議会が暫定政権に加わり、閣僚ポストを与えられる一方、軍隊については暫定政権の管理下に置かれる。また政府は、南部移行評議会が今年8月に制圧したアデンに戻される予定だ。

 

評価

 イエメン紛争は、端的に言えば2014年以降、暫定政権と武装勢力アンサール・アッラー(俗称:フーシー派)の対立を中心とし、サウジとUAEが暫定政権を支援してきた。そして、今年8月に南部移行評議会が暫定政権から離反したことで三つ巴に展開し、UAEが南部移行評議会を支援していると言われる等、サウジ・UAEの足並みにも不一致が目立ち始めた。しかし同9月以降、サウジ・UAEが交渉し、暫定政権と南部移行評議会を仲介して本合意に至った。

 サウジとしては、暫定政権がアンサール・アッラーと南部移行評議会に対する劣勢を覆せず、この間にアンサール・アッラーによるとされるドローンを用いた攻撃がエスカレートする状況下で、本合意は重要な意味を持つ。一方、サウジほどアンサール・アッラーを直接的な脅威と見ていないUAEは、サウジの仲介を助けたことで、今後のイエメン紛争におけるプレゼンスを強める(かつ、負担を減らす)ことを想定しているだろう。

 以上を踏まえ、ひとまず本合意は、サウジから見ればアンサール・アッラーの孤立化に向けた成果と位置づけられるが、新政権の利益配分が具体的にどのようになされるかは未知数で、さらにアンサール・アッラーの掃討がイエメン国内の安定化につながる保証はない。

 

【参考】

「イエメン:南イエメン移行評議会がアデン市を制圧」『中東かわら版』2018年度No.162

「イエメン:南部移行評議会がアデンを制圧」『中東かわら版』No.79

「イエメン:イエメン軍がサウジ南部に大規模攻勢」『中東かわら版』No.106

(研究員 高尾 賢一郎)

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