中東かわら版

№128 イラン:フォルドゥ核関連施設におけるウラン濃縮の開始

 2019年11月5日、ロウハーニー大統領は、第4段階目となるイラン核合意(JCPOA)の履行一部停止を6日から開始すると発表した(5日付『ISNA』(改革派系))。概要は以下の通り。

 

  • 本日、フォルドゥにある遠心分離機1,044機に、6日からガス注入を開始するよう原子力庁に指示を出した。
  • 今次措置は国際原子力機関(IAEA)の監視の下行われる。これまでの3回に亘る履行一部停止と同様、JCPOA当事国が合意を遵守すれば撤回可能である。
  • JCPOA当事国との交渉は継続する予定であり、彼らに対して2カ月間の猶予期間を与える。我々が原油を販売でき銀行を使用できるようになれば、合意に戻ることができる。

 

 また、同日、キャマールヴァンディー原子力庁報道官は、6日からフォルドゥ核関連施設へ核材料を搬入すると明らかにした。これにより、濃縮ウラン生産量は1日当たり計6キログラムに増加し、JCPOA以前と同水準になる(5日付『タスニーム』(保守強硬派系))。 

評価

 フォルドゥ核関連施設は、宗教都市ゴムから北東約30キロに位置するウラン濃縮のための地下施設で、遠心分離機約3,000機を収容できるとされる。同施設は、2009年9月、イランがIAEAにその存在を通告したことで公に知られることになった。2016年8月、ロシア製の高性能地対空ミサイルシステムS-300をフォルドゥ核関連施設に配備していることから、イランは同施設を戦略的な重要拠点と見做していることが窺える。

図.フォルドゥ核関連施設の位置

 

(出所:Google Mapより筆者作成)

 

 2015年7月に締結されたJCPOAによって、15年間、イランはフォルドゥ核関連施設においていかなるウラン濃縮活動、そのための研究開発、及び、核材料の保管も行わないことに合意し、同施設は核、物理学、技術センターに転換された(第5条、第6条)。また、同施設は遠心分離機IR-1型1,044機を建物の一翼に据え付けるが、上述の通り、これはウラン濃縮活動のために使われないことになっている。

 今次措置によって同施設においてウラン濃縮が再開することになるが、イランが行うウラン濃縮活動の全体から見た時、その影響はそれほど大きくないと言える。JCPOAは、ウラン濃縮能力を持つもう一つのナタンズ核関連施設に、IR-1型5,060機の稼働を認めている。また、4日、サーレヒー原子力庁長官は第3段階目のJCPOA履行一部停止(本年9月6日から開始。詳細は『中東かわら版』No.91参照)の一環として、IR-1型より高性能の遠心分離機IR-6型(IR-1型の約10倍の能力を保有)30機にガスを注入し新たに稼働させるとともに、新型遠心分離機IR-9型(IR-1型の約50倍の能力を保有)の試作品を製作中だと公表した。既に稼働するこれら遠心分離機と今次措置の間の濃縮ウラン生産量を比較してみると、数字だけ見れば影響は甚大ではないと評価できる。

 他方、これまでナタンズに限定されていたウラン濃縮活動をフォルドゥにまで拡大したことは、JCPOAの合意事項の重大な履行違反であることに間違いはない。加えて、合意違反の地理的・量的な拡大は、JCPOAが定める制限への回帰をさらに困難にすると考えられる。実際、EU、フランス、英国、ロシアらは今回のイランの発表に直ちに懸念を表明し、イランにJCPOAの合意事項を遵守するよう求めた。イランはJCPOA当事国に対して2カ月間の猶予を与えており、これら諸国がイランが求める経済的利益、つまり、原油輸出の再開と銀行活動の正常化を供することができるかが重要な鍵になるだろう。それが難しい場合、9月25日時点でモゲリーニEU上級代表が「(JCPOAの維持は)段々と難しくなっていると言わざるを得ない」と認めているように、当事国間でJCPOAへの停滞感が広まっていることから、JCPOAが実質的な崩壊に向かう恐れもある。

(研究員 青木 健太)

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