中東かわら版

№124 イスラーム過激派:アメリカが「イスラーム国」のバグダーディーを殺害したと発表

 2019年10月27日夜(日本時間)、アメリカのトランプ大統領はシリア北西部のイドリブ県のトルコとの国境付近の集落でアメリカ軍が特殊作戦を実施、「イスラーム国」の自称「カリフ」であるアブー・バクル・バグダーディー(本名:イブラーヒーム・バドリー)を殺害したと発表した。

 「イスラーム国」は、2019年9月16日にバグダーディーの演説と称する音声ファイルを発表しているが、これが現時点での同派公式のバグダーディーの消息情報の最新のものである。なお、本稿執筆時点で、「イスラーム国」はトランプ大統領の発表について一切論評していない。

 

評価

 バグダーディーの殺害により「報復テロ」が誘発される、或いは「イスラーム国」の思想が世界中に拡散しており、各地で決起する者が後を絶たない、などの脅威論、悲観的な見通しは根強い。その一方で、下に挙げた各種分析の通り、「イスラーム国」は既に広報分野でも現場での作戦行動の面でも明らかに衰退過程にある。今般の発表に対し、これを否定するなり、後任の「カリフ」を擁立するなりの反応を直ちにとることができないという事実が、同派はバグダーディーの生死とは無関係に決定的に衰退していることを示している。

 ただし、「イスラーム国」の衰退は、既存の国家権力に対抗/挑戦して領域を占拠する武装勢力や、暴力の行使やその威嚇によって政治目標を達成しようとするテロリストの根絶を意味するのではない。武装勢力やテロリストは、国家権力やその統治が脆弱な地域や、テロリズム以外の方法で政治的な不平不満を表明したり発散したりできない体制の下に現れやすい。事態の推移を、「イスラーム国」やバグダーディーという個別の事例としてだけでなく、紛争やテロリズムの問題として観察し、対処することが肝要である。

 また、かつては報道機関や関係当局が「イスラーム国」の広報活動に過剰反応し、同派の実力を過大評価したことが、「イスラーム国」を増長させた一因だった。ここから、今後「イスラーム国」がなにがしかの攻撃を行い「犯行声明」を発表したとしても、その内容や質を確実に分析し、過剰反応しないことも重要である。「イスラーム国」は、毎週木曜日/金曜日に週刊の機関誌を刊行している。この機関誌上でバグダーディーの殺害情報について何らかの論評をすることができないようであれば、同派の広報活動や組織としての活動、模倣犯・共鳴犯への影響力は相当低下していると考えるべきだろう。

 

 

【参考情報】

 <イスラーム過激派モニター>

 

<中東分析レポート>

(主席研究員 髙岡 豊)

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