中東かわら版

№118 UAE・サウジアラビア:プーチン露大統領の来訪

 2019年10月14日、ロシアのプーチン大統領がサウジアラビアを訪問(2012年以来)、続けて15日にはUAEを訪問した(2007年以来)。サウジ・UAE国内のメディアは同大統領との会談の成果について、以下概要の通り報じた。

 

1. サウジアラビア

●エネルギー、宇宙・衛星、司法、保健、税制、鉱物資源、観光、航空、文化、貿易、AI・交通等の分野にかかわる合意。

●上記の内、とりわけ石油価格維持を目的としたOPECプラス(※)の協力体制の強化にかかわる合意。※OPEC非加盟国であるロシアの参加。

●ホルムズ海峡、イエメン、シリア、及びトルコのシリア介入についての協議。

 

2. UAE

●エネルギー、貿易、投資、環境、AI等の分野にかかわる合意。

●石油の安定的な供給を目指した、過激主義・テロ対策にかかわる協議。

●宇宙産業についての協力体制について協議。

 

評価

 ホルムズ海峡タンカー事故(『中東かわら版』No.30~31, 45)、サウジアラビアでの石油施設攻撃を背景に(『中東かわら版』No.94~96, 98)、10月に米国がサウジへの3,000人の増派を決定、トルコがシリア北部への軍事行動を開始した折(『中東かわら版』No.112~114, 117)、プーチン大統領のサウジ・UAE訪問は、ロシアによる湾岸地域への積極的な関与として注目された。一方、サウジ・UAEでは、今次会談の成果について、エネルギー分野での協力関係を中心に報じられている。二国としては、ホルムズ海峡(イラン)やシリアの問題の影響が広範に及ぶことを考慮し、今次訪問が域内の緊張を高めうる事態を避けたかったと思われる。一方のロシア側も、安全保障面での協力として湾岸諸国に望むのは、ひとまず防衛システム(S400)の購入であり、今次会談が湾岸地域への実質的な関与と見られるのが本意とは限らない。このため、会談の主たる成果は、エネルギー分野を中心とした経済協力関係の強化と位置づけられたと考えられる。

 とはいえ、経済協力分野の合意が有名無実なわけではない。注目したいのは、会談後にされた、宇宙産業成長に向けた10カ年投資計画である。UAEでは2014年に設立された宇宙庁が主管となって、今年3月に「国家宇宙戦略2030」(National Space Strategy 2030)が開始され、9月にはアブダビ首長国出身の元軍人であるハッザー・マンスーリー氏が国際宇宙ステーショーンに滞在する等、宇宙事業が一躍脚光を浴びている。同10カ年計画は、ロシアとの連携を通じて、将来的に宇宙での資源採掘、観光事業の実施を目指すものとして構想されている。

 現在、UAEで進められている経済プロジェクト「ビジョン2021」は、建国50周年にあわせた2021年に終わりを迎える。目下、「ビジョン」と別に進められている宇宙事業だが、「ビジョン」の後継スキームが計画されれば、中心事業の一つとなる可能性は高い。

 

【参考】

『中東分析レポート』「GCC 各国の 「ビジョン」」(2019年10月) ※会員限定

(研究員 高尾 賢一郎)

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