№115 チュニジア:議会選挙の結果(暫定)
2019年10月6日、議会選挙が行われ、同9日に暫定結果が発表された。第1党はナフダ党、第2党は今年結成されたばかりのチュニジアの心党(党首はナビール・カルウィー大統領候補)となった。シャーヒド首相率いるタヒヤ・トゥーニス党は14議席、民主化開始後の政治過程でナフダと共に二大政党の一翼を担っていたチュニジア呼びかけ党は、僅か3議席であった。
【選挙結果(暫定)】
- 有権者登録数 7,065,885
- 投票総数 2,946,628(投票率41.7%)
- 有効票 2,858,187
- 無効票 49,704
- 白票 26,403
- 選挙制度 比例代表制
- 議席配分(定数217)
政党/連合名 |
備考 |
議席数 |
議席率 |
ナフダ運動 |
イスラーム主義 |
52 |
24.0% |
チュニジアの心党 |
社会民主主義 |
38 |
17.5% |
民主潮流 |
社会民主主義 |
22 |
10.1% |
尊厳連合 |
イスラーム主義 |
21 |
9.7% |
自由憲法党 |
中道右派;元立憲民主連合党員によって結成 |
17 |
7.8% |
人民運動 |
左派 |
16 |
7.4% |
タヒヤ・トゥーニス運動 |
中道右派;呼びかけ党から分離結成 |
14 |
6.5% |
チュニジア計画運動 |
中道右派;呼びかけ党から分離結成 |
4 |
1.8% |
共和人民連合 |
左派 |
3 |
1.4% |
チュニジア呼びかけ党 |
中道右派 |
3 |
1.4% |
慈悲党 |
|
3 |
1.4% |
チュニジア選択肢党 |
|
3 |
1.4% |
チュニジア展望党 |
|
2 |
0.9% |
希望と独立労働運動 |
|
2 |
0.9% |
その他、1議席の17政党 |
|
17 |
7.8% |
(出所)独立最高選挙機構(ISIE)、各紙より筆者作成。
評価
議席配分を見ると、議会選挙はナフダ党の勝利と言える。同党は全選挙区で議席を確保した唯一の政党であり、組織力を見せつけた。
しかし実質的には、9月の大統領選挙と同じく、有権者が既存の政党に対して強い否定を突き付けた選挙であったと言える。なぜなら、ナフダ党は2014年議会選挙では69議席を獲得し、今次選挙の直前まで60超の議席を維持しており、明らかに議席を減らしたからである。チュニジア呼びかけ党も同様である。2014年議会選挙で85議席を獲得したものの、その後は党内対立やナフダ党との対立が続き、同党から複数の党が分離結成された結果、今次選挙で3議席という無残な結果に終わった。呼びかけ党から分離結成された新党(タヒヤ・トゥーニス、チュニジア計画)もそれほど多くの議席を獲得できなかった。こうした政界に対して有権者は以前から不満を持っており、既存の政治エリートに期待しない傾向が強まっていた。
これとは対照的に、ナビール・カルウィー大統領候補率いるチュニジアの心党が、今年結成されたばかりにもかかわらず38議席も獲得できた理由は、カルウィー氏が自身のテレビ番組で貧困層への社会サービスを提供する様子を放送し、同氏およびチュニジアの心党はチュニジア社会がまさに必要とする社会経済政策に積極的に取り組むという印象が有権者の間に強く持たれたためであろう。したがって、議会選挙は大統領選挙第1回投票とほぼ同じ結果になったと言える。
新内閣はナフダ党を中心とした連立になると思われるが、連立交渉の難航が予想される。ナフダ党は2016年に政治的イスラームの放棄を宣言したが、いまだに世俗派から強い嫌悪感を持たれており、それが政界におけるナフダ党と世俗派政党の間に亀裂を作っている。また連立内閣が成立した後も現在のような政党間対立が続く場合は、再び党の離合集散を招き、社会経済開発の遅れと国民の政治不信を招くであろう。
*関連情報として下記もご参照ください。
(研究員 金谷 美紗)
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