中東かわら版

№114 トルコ:シリア北部での対クルド軍事作戦を開始

  

 2019年10月9日、エルドアン大統領は、トルコ軍がシリア北東部に侵攻を開始したと発表した。同軍事作戦は、「平和の泉」と名付けられ、トルコ政府がテロ組織と認定する、クルディスタン労働者党(PKK)とその派生組織で、シリア北部に展開するクルド人民防衛隊(YPG)および、「イスラーム国」の残党勢力を中心としたシリア民主軍(SDF)の拠点に対し実施される。9日付の『ロイター』は、SDFからの情報として、トルコ軍の攻撃により民間人を含め8名が死亡、数十名の負傷者が出ていると報じている。

 エルドアン大統領は同日、「「平和の泉」作戦によって、我が国に対するテロの脅威を排除する。私たちが設立する安全地帯では、シリア難民に自国に帰還できることを保証する。シリアの領土を守り、同地域にいる人々を恐怖から救う。」とツイッターに投稿した。また、チャウシュオール外相も同じくツイッターで、「同軍事作戦は、国際法、国連憲章第51条、およびテロとの戦いに関する国連安全保障理事会決議に従って実施されている」と投稿し、トルコの正当性を訴えた。

 一方米国ではトルコ政府の発表を受け、トランプ大統領が「(トルコの軍事攻撃は)悪い考えだ。米国は支持しない」と発言したが、今般のトルコの動きへの具体的な対応については言及しなかった。

 共和党の重鎮で、上院司法委員会委員長のリンゼイ・グラハム上院議員は、トランプ大統領の決定を批判し、撤回を求めるとコメントした。また、超党派議員によるトルコへの経済制裁発動決議を議会に提出する方針であることを明かした

   

評価

 

 今般の軍事攻撃は、トルコが水面下で関係各国と緊密に連絡を取り、根回しをしたうえで実施したとみることが出来よう。米国では民主党だけでなく共和党内からも反発の声が上がってはいるものの、トランプ大統領は表面的に非難しただけで、具体的な行動について言及していない。イランは、ザリーフ外相がチャウシュオール外相と7日夜に電話会談し、軍事攻撃には反対との姿勢を示したが、トルコの立場は理解できるとし、事実上黙認している。アサド政権の後ろ盾であるロシアも今次の軍事行動について目立ったコメントはしておらず、黙認する立場をとっている。

 トルコがこのままシリア北部を占領するのでは、という国内外の報道があるが、現状に鑑みればその可能性は低いと思われる。トルコが軍事侵攻によってシリアへの領土的な野心をちらつかせたならば、アサド政権を支持するロシアが直ちに阻止に動くはずであり、欧米との関係が悪化しているトルコが現時点でロシアを敵にするような行動をとるとは考えにくい。また、トルコは国内経済が低迷しており、自国軍を駐留させ続けるのは多額の戦費を要するため、現実的ではないだろう。あくまでも今次の作戦は、YPGを主力とするSDFの掃討が目的であると考えられる。 

 

(研究員 金子 真夕)

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