中東かわら版

№111 パレスチナ:イスラエルからの送金再開

 2019年10月4日、パレスチナ自治政府(PA)とイスラエル政府は、イスラエルによるPAへの送金再開に合意した。これまでイスラエルは徴税を代行し、PAに送金してきたが、今年の2月以降、PAはその受け取りを拒否してきた。その理由は、イスラエルが今年の2月、PAへの送金額を一部差し引く決定をしたことがある。差し引き分は、2018年中にイスラエルにいるパレスチナ人の収監者と、イスラエルとの抵抗で死亡した者達の家族にPAから支払われてきた補償金に相当する。イスラエルはこうした金銭の使われ方を問題視し、2018年に本件について議論を重ねていた。今回、この減額措置(毎月4200万シェケル、年間5億400万シェケル)について両者は合意していないため、これに相当する金額が今後の送金で差し引かれるが、PAは、今後も補償を続けていくと発表している。送金はすでに始まっており、PAは15億シェケルを受領している。

 10月8日付の『シャルク・アウサト』紙は、9月の末頃にイスラエルのカハロン財務相とPAのシャイフ民事担当相が合意を交わしたと報じた。また、この合意を受けて、10月6日以降、1994年のパリ・プロトコルで設置されたイスラエル・パレスチナ合同委員会が協議を始めており、今後、イスラエルによる減額措置を含め、税制や財政に関わる協議が両者の間で行われる模様である。

評価

 イスラエルの減額措置に対するPAの抵抗はおよそ8カ月続いた。この間、PAはイスラエルで拘束される捕虜と殉教者の家族(これはPA側の呼称。イスラエル側はテロリストと呼称)への補償を続けると主張し、送金の受け取りを拒否してきた。だが財源は補填されず、財政状況は悪化し続けた。

 8月の時点で、PAとイスラエルは送金の一部再開で合意しており、この時は、西岸地区の情勢悪化を懸念するイスラエルと、財政問題の改善を模索するPAが妥協する形で合意が交わされた(『中東かわら版』No.85)。しかし、今次の合意でPAは、イスラエルが補償金分を差し引くことを間接的に認めているため、イスラエルの決定に屈したと言えなくもない。もっとも、この8カ月間にアラブ諸国や国際社会がPAの財源確保に向けて動かなかったことに鑑みれば、現実的な選択として財源の確保が優先されたとも評価できる。

 今次の合意にあるように、両者の間で税制・財政について今後協議が行われる見通しである。だが、イスラエルが減額措置を既成事実として扱うことが予想されるため、PAは不利な立場から協議に臨まざるを得ないだろう。

 

(研究員 西舘 康平)

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