中東かわら版

№112 トルコ:シリア北部での対クルド軍事作戦開始を宣言

  

 10月7日、エルドアン大統領は、クルド人民防衛隊(YPG)の支配下にある、シリア北部での軍事作戦を開始する準備が整ったと発表した。セルビアに向かう直前の記者会見で明らかにした。

 「トルコは決断した」と述べたエルドアン大統領は、トルコがテロリストからの脅威を容認することは絶対にない、とした上で、米軍が同地域から撤収を開始したことにも言及した。

 エルドアン大統領は、米軍撤収とトルコの軍事作戦開始の決定が6日の遅く、トランプ大統領との電話会談後になされたことを明かした。また、同電話会談の中でエルドアン大統領から、米軍と治安当局が、トルコ・米国間の協定を履行できなかったことへの不満を表明したことも明らかにした。両国はシリアを流れるユーフラテス川の東側に「安全地帯」を設置するため、共同で作戦を実施することおよび、履行に向けてトルコ側に軍事作戦本部を設置することについても合意している。

 米国のグリシャム報道官は、米国がトルコ軍の作戦を支援、関与することはないと述べ、米軍がトルコの対クルド作戦に介入する考えはないことを示した。トランプ大統領はツイッターで「トルコが自分の許容範囲を超えたら、トルコ経済を破壊し抹殺する(過去にもやった)」と投稿し、トルコの軍事作戦によって米軍に被害が及ぶことがないよう警告した。

 両首脳は、11月にエルドアン大統領がワシントンを訪問し、トランプ大統領と直接会談することも明らかにしている。

 

  

評価

 

 トルコ政府は、シリアに「安全地帯」を設置し、トルコ国内にいるシリア難民の早期帰還を促すこと、また、トルコとの国境地帯で活動するYPGの動きを封じ込めることに注力してきた。

 「安全地帯」の設置は、米国をはじめ国際社会に対してトルコが主張し続けてきたことであるが、シリア北部では「イスラーム国」の残党、米国が協力・支援するクルド、トルコが支援する反シリア政府勢力、ロシアが後ろ盾となっているシリア政府軍が入り混じった複雑な状況下にある。これに加えて、YPGをトルコのクルド人武装組織クルディスタン労働者党(PKK)と同一の「テロ組織」とみなすトルコは、米国がYPGを支援することに非常に強い不快感を表明しており、このことが過去数年、トルコ・米国関係に緊張をもたらす大きな要因となっている。

 米国はトルコに対し、YPGへの軍事作戦を止めるよう説得を続けてきた。だが、ここにきてトルコの軍事攻撃を黙認し、クルドを見捨てる決断をした。米国のこの方針転換の背景には、来年に迫った大統領選があると考えられる。しかしながらこの決定は、壊滅状態にある「イスラーム国」の復活や、トルコ軍の攻撃による犠牲者の増加、新たな難民の発生などを生じさせかねない。

 さらに、梯子を外されたクルド勢力からの反発は必至で、中東地域における米軍への不信感を一層増大させるだけでなく、新たな敵を作ることとなるだろう。

 

 

(研究員 金子 真夕)

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