中東かわら版

№110 イラン:ジャースク港への石油パイプライン敷設事業の開始

 2019年9月30日、ザンギャネ石油相は、ペルシャ湾に面するブーシェフル州グーレフにある石油施設から南部ホルムズガーン州ジャースク港へ向けた石油パイプライン敷設事業を開始すると発表した。同日、国内企業3社とパイプライン導入のための電気ポンプ50基の調達に係る契約が署名された。

 9月30日付石油省発表、及び、国営通信『IRNA』によれば、その概要は以下の通りである。

 

●9月30日、石油工学開発公社(PEDEC。イラン国営石油公社(NOIC)の子会社)は、イラン産業ポンプ会社(Iran Industrial Pumps Company)、イラン・ポンプ社(Pumpiran)、ペトコ社(PetCo)の3社と、電気ポンプ50基調達のための合計4800万ユーロ(約56億円)の契約に署名を交わした。

●今次契約は、グーレフからジャースク港への石油パイプライン敷設事業の一部である。この全体事業は、約1000キロメートルに渡る42インチの導管の敷設、ポンプステーション5カ所、貯蔵容量50万バレルの貯蔵所20カ所、石油輸出に必要な港湾設備等の建設・整備を含む。これにより、ジャースク港は日量100万バレルの輸出が可能となる。工期はヒジュラ太陽暦1399年末(※西暦2021年3月)まで。事業総額は18億ドル(約1920億円)であり、この内、ジャースク港開発に7億ドル(約750億円)が費やされる見込み。

●今後、ジャースク港に石油精製施設2カ所、及び、石油化学コンプレックス1カ所の建設も進める計画である。これにより、モクラーン地方(※イランとパキスタンに跨るオマーン湾に面する沿岸地域)の様相は一変する予定である。

評価

 グーレフ-ジャースク港間の石油パイプライン構想自体は2012年頃から存在していたものの、これまで実現には至らずにいた。今般、敷設に向けて必要な物資調達の契約が交わされたことは、イランのジャースク港開発、ひいてはモクラーン地方の開発に向けた本気度を示唆するものだと言えよう。

 イラン港湾海事局発行『2018年間報告書』によれば、現在、イランの海上輸送はバンダル・アッバース港(全海上輸送貨物に占める取扱比率53.87%)、及び、イマーム・ホメイニー港(同29.78%)に大きく依存している。その中で、ジャースク港の海上輸送貨物の取扱いは全体の1%に満たず、イラン国内でも小さな港である。しかし、ジャースク港は、ホルムズ海峡の外側に位置しており、仮にペルシャ湾内の軍事的緊張が高まった有事にも影響を受けずに輸出入することができる利点がある。イランが将来を見据えた上で、「ホルムズ和平案」(詳細は『中東かわら版』No.101)を提唱しつつも、ホルムズ海峡回避とも受け取れる手を同時に打っていることは、リスク分散を念頭に置いたイランの安全保障政策の多面性を示すようでもある。

 他方、米国の経済制裁の影響でイラン産原油の禁輸措置が続く中、イランとしては石油輸出による外貨獲得自体が難しい状況である。このため、もしジャースク港開発が順調に進展したとしても、石油の買い手が現れない状況も想定される。また、省庁間の連携不足や、受注企業の能力不足等により、工事が計画通りに進捗しない可能性も多いにあることから、慎重に見る必要があるだろう

 なお、イランは、2016年5月にアフガニスタン及びインドとともに南東部シースターン・バローチスターン州のチャーバハール港開発に係る協定に署名しており(詳細は『中東かわら版』2016年No.27)、ホルムズ海峡以東に開発の焦点をシフトする姿勢を見せてきた。チャーバハール港開発については、シースターン・バローチスターン州の発展や国際南北輸送回廊(INSTC)を通じた中央アジア・欧州との連結といった経済的側面から説明されることが多かった。しかし、チャーバハール港においても、石油化学コンプレックスや製鉄所の建設など総合的な開発の進展が確認できることや、今般のジャースク港開発の動きも踏まえると、イランはホルムズ海峡の外側にあるモクラーン地方開発を戦略的観点から重視しているとも言える。

  

図:グーレフ-ジャースク周辺地図

出所:Google Map及び公開情報より筆者作成。

(研究員 青木 健太)

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