№105 サウジアラビア:風紀取り締まりのための新しい法律
- 2019湾岸・アラビア半島地域サウジアラビア
- 公開日:2019/09/30
2019年9月27日、公共の場での言動を取り締まるための「風紀法」(Public Decency Law)が制定され、内務省がこの内容を承認した。本措置は、「サウジ・ビジョン2030」の一環で観光査証の発給が開始され(『中東かわら版』No.104参照)、今後、多くの外国人がサウジを訪問することを前提としたものである。風紀法が取り締まり対象とするのは、公共の場における以下の言動である。
一般原則(抜粋)
1. 本法律に基づいて取り締まりを行うのは警察官である。
2. 違反者は違反によって生じた損害を弁償する。
3. 違反者は本法律に関して訴訟を起こす権利を有する。
4. 違反者は本法律に関して法廷で苦情申し立てを行うことができる。
違反および罰則(※1)
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内容 |
罰金:再犯 |
罰金:初犯 |
1 |
性的な性質を備えた淫らな振る舞い。これに関与した全ての者。 |
6,000 |
3,000 |
2 |
住宅地で事前の許可なく高音量で音楽を流すこと。これに対して住民から苦情を受けた者。 |
1,000 |
500 |
3 |
礼拝時間中に音楽を流すこと。 |
2,000 |
1,000 |
4 |
飼い主によるペットの糞の放置。 |
200 |
100 |
5 |
指定された場所以外でのゴミ捨て、つば吐き。 |
1,000 |
500 |
6 |
高齢者・障害者用の座席や施設の占有。 |
400 |
200 |
7 |
公共の場に通じるフェンスなどの乗り越え。 |
1,000 |
500 |
8 |
不適切な服装(※2)。 |
200 |
100 |
9 |
下着ないし寝間着のみの着用。 |
200 |
100 |
10 |
卑猥な言葉や節度を欠く絵・デザインが施された服装。 |
200 |
100 |
11 |
各種差別やポルノ・薬物の使用につながる下品な言葉・絵・デザインが施された服装。 |
1,000 |
500 |
12 |
許可なく公共の車両や壁に文字や絵を描くこと。またこれに準ずる行為。 |
200 |
100 |
13 |
公共の車両に差別やポルノ・薬物の使用につながるスローガンや絵を描くこと。 |
200 |
100 |
14 |
許可なく公共の場に商用ラベルやチラシを貼り付けること。 |
200 |
100 |
15 |
公園や公共の場の指定された場所以外で火を起こすこと。 |
200 |
100 |
16 |
他人を傷つけ、怖らがらせ、脅かす可能性のあるあらゆる言動。 |
200 |
100 |
17 |
許可なく順番待ちの行列を無視すること。 |
100 |
50 |
18 |
他人を傷つけ、怖がらせ、脅かす可能性のある、レーザー光線などを浴びせること。 |
200 |
100 |
19 |
許可なく他人、また交通事故・犯罪・事件現場を撮影・録画すること(当該データの消去を命じる)。 |
2,000 |
1,000 |
※1 罰則は罰金(サウジ・リヤル)のみ。1サウジ・リヤル≒29円
※2 肌が露出するもの。女性は肘丈、膝丈、首回り、胴回りの他、穴の空いたズボンなど。男性は上半身など(ただし、慣例では男性でもタンクトップや、膝上丈の半ズボン着用は忌避される)。
なお、観光用査証取得のページによれば、酒類の持ち込み・販売・摂取は引き続き禁止である。
評価
風紀法は、今年4月の閣僚会議で内務省を主管として可決され、その後は同省が詳細を定めるとされていた。観光査証発給と同じタイミングでの制定は、同法律が主に、今後サウジアラビアを訪れる外国人観光客の言動を規制するためのものであることを意味する。同法律は属地主義に基づき、外国人や非イスラム教徒に対しても適用されるため、違反5、8、10、11、19などは日本人観光客も注意する必要がある。
従来、本法律の違反項目に相当する内容は、宗教警察(勧善懲悪委員会)によって取り締まられ、一部には身体刑(拘留・鞭打ち)が科されてきた。しかし、宗教警察は2016年4月、国家改革計画「サウジ・ビジョン2030」が開始のタイミングに併せて逮捕権の剥奪が決定され、その後は捜査権も大幅に制限された。このことは、本法律の一般原則における「本件の取り締まりを担当するのは警察官」との説明、また刑罰が身体刑ではなく、財産刑に限られていることに反映されている。
以上を踏まえ、本法律は「ビジョン」の一角をなす観光政策のための措置として、近年の宗教警察の権限縮小と大きく関わっていると言える。とはいえ、すべてではないにせよ、公共の場での秩序形成を宗教機関(宗教法)から世俗機関(世俗法)の所管に移したことは、イスラムにのっとった社会形成を国是としてきたサウジアラビアにとって、「ビジョン」の進捗にとどまらない転換と捉えるべきであろう。
(研究員 高尾 賢一郎)
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