中東かわら版

№103 イスラエル:選挙の最終結果と組閣の動き

 中央選挙委員会は、9月17日のやりなおし選挙の最終結果を25日に発表した。リクード、「青と白」がそれぞれ30議席以上獲得したものの、過半数は越えなかった。同日、22日から組閣の委任を検討してきたリブリン大統領はネタニヤフ首相に組閣を委任した。

 組閣のプロセスは概ね以下の通りに進む。1回目の組閣の期間は28日間(大統領が14日間期限を延長可能)で、1回目の組閣が失敗した場合、大統領は3日間議員と協議し、新たな首相候補者に組閣を委任する。組閣が失敗とみなされる条件は、「既定の期間が過ぎ、①クネセト議員が大統領に組閣の完了を通知していない、あるいは、②首相候補者が組閣ができないことを大統領に通知する、あるいは、③首相候補者が組閣を提示したものの、議会がこれを認めない」である。

 2回目の組閣の期限は28日間で、組閣に失敗した場合(1回目と同じ条件)、議会が21日間かけて3人目の首相候補者を選出し、これを大統領に伝えた後、大統領は当該の人物に組閣を委任する。期限は14日間。3回目の組閣が失敗した場合、議会は解散し、3カ月以内に新たに選挙を実施する。

 組閣の被委任者(首相候補者)の選出に当たっては、選挙当選者120名が首相候補を推薦し、61の過半数を超えて推薦を得られた者に大統領が組閣を委任するが、今回、過半数の推薦を得た者はいなかった。リクードのネタニヤフ首相は55人(右派・宗教政党/連合のシャス、ヤミナ、ユダヤ・トーラ連合)から推薦を受け、「青と白」のガンツ代表は54人(連合リスト、民主連合、労働・ゲシェル)から推薦を受けた。アラブ系の連合リストに属するバラド党の議員3名が、ガンツ氏への推薦を拒否したため、ネタニヤフ首相の推薦数を上回ることができなかった。なお、リーベルマン党首率いるイスラエル・ベイテヌは、ネタニヤフ氏、ガンツ氏のどちらも首相に推薦していない。

 以下は、各政党の獲得議席数、選挙の概要である。

(https://votes22.bechirot.gov.il/を基に筆者作成)

評価

 

 今次の選挙は前回(2019年4月)と同様、リクードと「青と白」を中心に行われたが、両党とも右派(リクード、シャス、ヤミナ、ユダヤ・トーラ連合で55議席)、左派(「青と白」、連合リスト、労働・ゲシェル、民主連合で57議席)に分かれて組閣しようとしても、過半数を超えられない状況だ。組閣のカギを握ると言われるイスラエル・ベイテヌのリーベルマン党首は、ネタニヤフ首相を排除したリクード、「青と白」、イスラエル・ベイテヌの連立を掲げており、今後の組閣の流れで、この動きを後押しする可能性があるだろう。

 対するリクードは「青と白」との連立を主張しているが、実現の見通しは不透明だ。特に、リクードがこれまで支持してきた超正統派の優遇、安息日の交通機関の運行停止などは「青と白」と相いれない問題であり、両党の連立交渉の障害に成り得る。議会が組閣を否認することも可能なため、リクードと「青と白」の大連立を組むにしても、その他の政党との合意が不可欠である。

 また、両党の連立に際してガンツ氏とネタニヤフ氏が首相を輪番で務めるとの話も出ており、首相就任の順序や期間が組閣の障害になると言われている。だが、もともと「青と白」のガンツ氏とラピド氏は、組閣に成功した場合に首相を輪番することで合意しているため、ガンツ氏はリクードとの連立協議を進める上で内部の対立を防ぐ必要があるだろう。

 自派に有利な条件を獲得するために、1回目、2回目の組閣を妨害する党派が出ることも予想される。前回の選挙では、1回目の組閣に失敗したネタニヤフ首相が、議会の解散を要求し、議会がこれを可決したことで(賛成74票、反対45票)、2回目の組閣を逃れたとも言われている。だが、今回は前回と状況が異なり、組閣に失敗して選挙がやり直しになれば、2020年度の予算編成が遅れるなどの弊害が生じる恐れがある。各党派がこうした弊害を認識しているのならば、組閣についての妥協がしやすくなるだろう。

(研究員 西舘 康平)

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