№102 アフガニスタン:大統領選挙前の動向
2019年9月28日、アフガニスタンで大統領選挙が実施される予定である。憲法によれば、大統領候補は副大統領候補2名とともに立候補しなければならない。過半数の得票率に達する候補者がいなかった場合、最終発表後2週間以内に得票上位2者による決選投票が行われる。大統領の任期は5年、再選1回まで。今次選挙戦には18人が立候補している(下図参照)。
■主な選挙日程
選挙運動 7月28日~9月25日
投票日 9月28日
暫定結果発表 10月19日
最終結果発表 11月7日
決選投票 11月23日(予定)
■立候補者リスト(投票番号順;括弧内は民族(※)と主な経歴・属性)
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大統領候補 |
第一副大統領候補 |
第二副大統領候補 |
1 |
ラフマトッラー・ナビール(P;元国家保安局長官) |
ムラード・アリー・ムラード(H;元内務副大臣) |
マスーダ・ジャラール(T;元女性課題相;女性) |
2 |
サイード・ヌールッラー・ジャリーリー(S;ビジネスマン) |
アブドルハリール・ルーマーン(T;元ナジーブッラー政権官房長官) |
チェラーグ・アリー・チェラーグ(H;元高等教育省幹部) |
3 |
フェルアムラズ・タマナー(T;元外務省幹部) |
サイード・キヤース・サイーディー(P;元大学教授) |
ムハンマド・アミーン・レシャーダト(H;元大学教授) |
4 |
シャイダー・ムハンマド・アブダーリー(P;元駐インド大使)※出馬取り止め |
アブドルバシール・サーランギー(T;元パルワーン州知事) |
ズルファカール・オミード(H;元市民活動家) |
5 |
アフマド・ワリー・マスード(T;故マスード将軍弟) |
ファリーダ・モーマンド(P;元高等教育相;女性) |
アブドルラティーフ・ナザリー(H;元国民統一党員) |
6 |
ヌール・ラフマーン・リーワール(P;元ソフトウェア会社社長) |
アブドルハーディ・ズールヘクマト(P;元イスラーム党員) |
ムハンマド・ヤヒヤー・ウィヤール(P;元政治アナリスト) |
7 |
ムハンマド・シャハーブ・ハキーミー(P;元NGO代表) |
アブドルアリー・サラービー |
ヌールハビーブ・ハシール |
8 |
アシュラフ・ガニー(P;現大統領) |
アムルッラー・サーレフ(T;元国家保安局長官) |
サルワル・ダーネシュ(H;現第二副大統領) |
9 |
アブドッラー・アブドッラー(T;現行政長官) |
エナーヤトッラー・バーブル・ファラフマンド(U;元第一副大統領府長官) |
アサドッラー・サーダティ(H;イスラーム統一党員) |
10 |
ムハンマド・ハキーム・トールサン(U;元ナジーブッラー政権幹部) |
ムハンマド・ナーデル・シャー・アフマドザイ(P;シンクタンク代表) |
シャフィー・カイサリー(U;元共産党員) |
11 |
グルブッディン・ヘクマティヤール(P;元首相、イスラーム党指導者) |
ファズルハーディー・ワジーン(T;元大学教授、イスラーム党員) |
ムフティ・ハフィーズラフマーン・ナキー(T;元裁判官、イスラーム党員) |
12 |
アブドルラティーフ・ペドラーム(T;国民会議党首) |
ムハンマド・エフサーン・ハイダリー(H;元国際機関職員) |
ムハンマド・サーデク・ワルダック(P;元ムジャーヒディーン) |
13 |
ヌールハック・ウルーミー(P;元内相、元カンダハール州知事) |
バシール・ビージャン(T;元ジャーナリスト) |
ムハンマド・ナアイム・ガユール(元国防省職員) |
14 |
ハージー・ムハンマド・イブラーヒーム・アロコーザイ(P;部族長老) |
ハディージャ・ガズナウィー(H;会社社長;女性) |
サイード・サーマ・キヤーニー(S) |
15 |
ゴラーム・ファルーク・ナジラービー(T;医師) |
シャリーフッラー |
ムハンマド・シャリーフ・バーバカロヘイル |
16 |
エナーヤトッラー・ハフィーズ(H) |
ジャンナト・ハーン・ファヒーム・チャカリー(P;元軍人) |
アブドルジャミール・シーラーニー(P;元独立人権委員会職員) |
17 |
ハニーフ・アトマル(P;元国家安全保障評議会書記、元内相)※出馬取り止め |
ムハンマド・ユヌース・カーヌーニー(T;元第一副大統領) |
ハージー・ムハンマド・モハッケク(H;元第二行政副長官) |
18 |
ザルマイ・ラスール(P;元外相)※出馬取り止め |
アブドルジャバール・タクワー(T;元カーブル州知事) |
ゴラーム・ワリー・ワハダト(H;元バーミヤーン州知事) |
(出所:独立選挙委員会HP(https://www.iec.org.af/prs/)及び公開情報を元に筆者作成)
※民族の表記は右の通り。P(パシュトゥーン人)、T(タジク人)、H(ハザーラ人)、U(ウズベク人)、S(サーダト)。
評価
現時点で、有力候補は、現職のアシュラフ・ガニーとアブドッラー・アブドッラーの2候補と見られる。当初、この2候補とハニーフ・アトマルによる三つ巴の戦いになることが予想された。しかし、当確後の権力配分を巡る内紛により、ハニーフ・アトマルは出馬を取り止めた(いずれの候補も支持しないと表明)。また、ザルマイ・ラスール、及び、シャイダー・ムハンマド・アブダーリーも出馬を取り止め、ガニー陣営への支持を表明した。最大民族パシュトゥーン人の票がアシュラフ・ガニーに集まる可能性が高くなったことは、同候補にとって追い風と見られる。他方、アブドッラー・アブドッラーにはドーストム将軍(U;国民運動党指導者)ら有力な元ムジャーヒディーン野戦指揮官らが支持を表明しており、両陣営間の勢力に大きな開きはないと見られることから、情勢は予断を許さない。
今次選挙に当たっては、深刻な治安上の懸念がある。ターリバーンは、8月6日、9月18日、26日の3度に渡って選挙を妨害すると表明しており、治安部隊との交戦、投票所の閉鎖、幹線道路の封鎖等が予想される。治安当局は妨害活動を阻止するため、検問所の設置、通信遮断等の対策に加えて、投票者に不安を与えないよう情報統制を敷く可能性もあり、正確な実態の把握は困難になるだろう。投票後も、集計作業、及び、落選候補による不正の糾弾とその裁定等により、最終結果が出るまでには長い時間がかかることが見込まれる。2014年大統領選では、4月の第一回投票から9月の大統領就任まで約6カ月を要した。また、カルザイ前大統領をはじめとする有力政治家は、和平を重視し選挙は延期すべきだと主張するなど、現時点でなお、実施自体を含めて状況は非常に流動的である。
(研究員 青木 健太)
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